【冬コミ出展告知】

冬コミ出展告知】30日 土曜東3 キ10b 黒死館附属幻幼稚園
今回取り上げる作家は戦後ほとんど顧みられることもなかった、戦前の奇術研究家・阿部徳蔵による魔術小説集第一弾『水晶凝視と犬』です。

B6 172p 1000円。
『犯罪公論』からピックアップした7編を初収録、作者掌中の魔術に遊び、フーディーニに並ぶ心霊世界への関心をとくとご覧頂きたい。
とはいえマニアックな奇術味からはほど遠いハイカラにして妖艶なモボモガの世界を彼一流の名文で書ききっています。もちろん、猟奇味溢れる全挿絵も採録しています。お楽しみに。
また「小栗虫太郎資料集ダクダク4 特集呪術師・護符・迷信」もコミケでは初売りになります。

その他既刊在庫僅少本もお持ちします。

『文豪ノ怪談ジュニア・セレクション』

ゆっくりと愉しむつもりだった『文豪ノ怪談ジュニア・セレクション』全五巻、大急ぎで目を通さなければならない事情が持ち上がった。一通り註釈の感じを掴むつもりで開いたものの、結局全編どっぷりと浸る至福を味わうことになってしまった。
もちろん原文総ルビの意味と、見開きで1頁を超える、容赦のない詳註に目を見張りつつ、ジュニア相手とはいいながら、決して気を抜いていない東さんのアンソロジストとしての本領を堪能する。
まず『夢』では近代文学宗匠漱石のフルヴァージョンの『夢十夜』から、弟子筋芥川、谷崎へと進み「病蓐の幻想」でユーモラスだが執拗な夢の描写で谷崎の異様な世界へと誘う。チラッと考えたのはこの作品が小品ではあるが、ユイスマンスの『さかしま』の世界観を連想させるものがあるのに気がついた。この後の佐藤春夫のクウビンや芥川のボードレールと共に、三人とも海外文学耽美主義の深い薫陶を浴びていることからすると、あながち深読みとも思えない。
以下、東さんの註によって、更にもう一つの世界、ファーザー・リーディングへ足を延ばす愉しみもある。なにしろ夢野のエピソード「空中」に対するにシュオッブが持ち出されるのだから、じゃあ「硝子世界」ならシェーアバルト「ガラス建築」を持ってこようとか思う。さらにさらに八雲「夢を啖うもの」にはアメリカ映画『禁断の惑星』からイドの怪物を連れてくるという豪腕。
さきに容赦ないと書いたが、二巻目の『獣』でも中島敦山月記坂口安吾「閑山」の冒頭でも東さんの豪腕は続く。そこから梶井基次郎「交尾」怪獣の註では、すっ飛びまくる怪獣愛が発揮されて、いっそ痛快。
本来ならここで三巻目の『恋』なのだが、この巻は最後に回した。
『呪』では、綺堂、圓朝と語りの名人を並べ、八雲、柳田國男以降も語りものでまとめる構成を取っている。呪いの成就は、言葉によるものだからという事かもしれない。久生十蘭「予言」も言葉による呪縛を、当時の風俗や心理学の用語を鏤めた名文で読ませるもので、ここでも東さんの本気が感じられる。本気といえばつぎの小松左京「くだんのはは」で、太平洋戦争末期の神戸の少年の暮らしと、別天地のようなお屋敷での生活を丹念に描いた名作である。こう言った作品は、よっぽどのことがないとこの叢書の読者の目には触れないと思う。それを怪異譚とはいえ若い読者に突きつける心構えは、凄いことだと思う。全体に部外者である少年のまなざしで語られた経緯は、決しておどろおどろしいものではないだけに、この結末の壮絶さは言葉にならない。実は素天堂はほぼ半世紀前、高校時代にこの作品を初出誌で読んでいた。雑誌という媒体は、思いがけない出会いというものを味あわせてくれるものだが、正直これほどの衝撃をうけた記憶はなかった。この本の流れの中で、アンソロジイの一作として組み込まれるとその印象は数倍も濃くなるものだとおもう。
最後の巻『霊』だが、生者と死者の交情に重きをおかれた構成は、怖い話というより、優しい話でまとめられているのが好ましい印象を受ける。怪談というジャンルを構成するに際して、霊という存在との関わりでソフトランディングを計ったのではないだろうか。とくに室生犀星「後の日の童子」は、死児との優しい交流という、全体の中でも最高の印象を与えられた。そう言えば、素天堂の勝手な趣味なのだが、名随筆家チャールズ・ラム『エリア随筆』での最上の作品「幻のこどもたち」を思い浮かべたのもその優しい情景に酔った故かもしれない。
全体を構成するに際して編者もこんな風にいっぺんに集中的に読まれることなどを想定はされていないだろうから、残して置いた『恋』があまりにも強烈に嬉しかったので編者の意図とは少し違った印象になってしまったのだろう。

この巻は、「片腕」「押絵」「影の狩人」と刺激の強い作品が肩を並べており、特に「菊花の契り」については、素天堂の所謂中二病の元となった作品であった。しかし何故か未読であった「月ぞ悪魔」の異国情緒と魔術趣味には一発で伸されてしまった。それと既読ではあったが「押絵と旅する男」の見開き全ページを埋め尽くす勢いの註釈には圧倒されもしたが、うれしかった。なにしろたった五行の本文に含まれる語彙の註釈である。蜘蛛男、江川の玉乗り覗きからくり・・・。どうです。如何な「早稲田演劇博物館」がお膝元とはいえ、目もくらむような浅草風景ではないですか。それにしてもこのラインアップ、一つとしてストレートなラブロマンスが一件もないですなあ。いやあ、おじさんは全五巻を通して至福の時を久しぶりに過ごさせて頂きました。

「小栗虫太郎資料集ダクダク4 特集呪術師・護符・迷信」「黒死館骨牌」通販開始


お待たせしました。文フリ新刊「小栗虫太郎資料集ダクダク4 特集呪術師・護符・迷信」と再版した「黒死館骨牌」の通販受付開始します。通販フォームからどうぞ。
「魔方陣デューラーメランコリア?」から
今回の一本目の柱は、28頁の本文と豊富な画像、多数の註釈を配したウォルフガング・ボルン「呪物、肌守および護符」で、人類学における念呪の本格的略史であり、もう一本が法医学の権威古畑種基による「人相と手相の迷信」で、洋の東西の手相学、人相学の基礎と、西洋骨相学の歴史にまで目配せした名論文です。
「人相と手相の迷信」挿図
新刊は盛林堂書房さん、古書いろどりさんでも若干部取り扱い頂いております。

「黒死館骨牌」は通販のみです。

お久しぶりの新刊告知です。「ダクダク4 特集呪術師・護符・迷信」

【新刊】11/23文フリ東京 オ74黒死館附属幻稚園

小栗虫太郎関連資料集ダクダク4 特集呪術師・護符・迷信」A5 116P 800円を頒布します。おなじみ戦前「チバ時報」「科学画報」より復刻、人類の根源的魔術世界をお楽しみください。
今回も、「チバ時報」「科学画報」を二本の柱に充実した内容です。
特に一本目の柱は、28頁の本文と、多数の註釈を配したウォルフガング・ボルン「呪物、肌守および護符」で、人類学における念呪の本格的略史であり、もう一本が法医学の権威古畑種基による「人相と手相の迷信」で、洋の東西の手相学、人相学の基礎と、西洋骨相学の歴史にまで目配せした名論文です。こちらも多くの学者が取り上げられていました。
その多くは医学関係者であり何とか註釈作業もすすめましたが、一件カナ書きでは現綴が掴めない人名が残りました。これは不詳物件で残そうかと思ったのですが取りあえず、もう少し探索してみることにしました。
その姓は「コッチェブユー」、いったい何人なのかどうみても誤植にしか見えないし、ファーストネームもわからず、同時代の医学者にも該当する人名はなかったし。やむを得ず骨相学の創始者ガルの初期からの、詳細な歴史サイトを隅から語彙の照合をすすめました。その初期ツアーの中で、ベルリンでガルを宿泊させた友人に、そう読める姓の人物が表れたのです。Mr. Kotzebueがその綴りですが、記事によると親密な友人とあり、古畑の記述とは相容れないと思われました。そこでヤット見つかった原綴を元に再検索にかかると、当時の進歩派で、若くして暗殺されたある人物にたどり着きました。August Friedrich Ferdinand von Kotzebueです。とはいってもこの人物とガルの接点はなさそうだし、やむを得ず同名のアラスカの町の語彙の嵐を避けるようにgallと合わせてさらに検索を進めました。と“The Organs of the Brain”という英語の笑劇に出会いました。これは調べて見るとが古畑の言う、初期の脳科学を笑った喜劇からの英訳で、原題は“Die Organe des Gehirns”でした。
これがその口絵。
お粗末ですが、こうやって註釈にたどり着くというたどたどしい見本についてでした。

老耄の域

先日久しぶりに古本市の抽選に当たった。1962年発行の「SFマガジン 臨時増刊 特集 恐怖と怪奇」だった。

大喜びで会場を出ようとしたら、一階で古本屋ツアーさんに出会った。軽くご挨拶したのだが、よっぽどニヤケていたようで、一発で見抜かれてしまった。ところがである。その号には、記憶も生々しい「信号手」も「十三階の女」も載っていなかった。先週野暮用で、S教授とお会いした際に、そのことを愚痴ったら、何を今更という反応だったが、まあ、年寄りのノスタルジイですと申し上げた。その場は所用もすみ、お別れしたのだが、その日のうちに「つぶやき」でくわしい答えを返して頂いた。単なる素天堂の勘違いで、その前の年に、発行された同企画と混同していたのであった。半世紀も前のことだから、記憶違いもやむを得ないが、ちょっとがっかりだった。今の作業が終わったら、改めて平井呈一の怪異譚エッセイでもじっくり読み返してみよう。
ともう一つ、先週末三井記念美術館の帰り、丸善によって、三十年ぶりの復刊だった『星戀』の中公文庫版を買った。帰りのバスの中で、K山に、この中に抱影が松本泰に貰った革ジャンパーの話が出るよと自慢していたのだが、ざっと読んでみたところどうやらそれも空振りだった。泰夫人の松本恵子のエピソードが登場するので、どうやらこれも他の著作と混同していたらしい。「つぶやき」でもつい昔話に引っかかって、口を挟みそうになるのだが、気をつけなければなるまい。
『星戀』少し丹念に読んでいくと、「空の祝祭 十一月」132pに勘違いのもとをみつけた。泰譲りだったのは、革ではなく純毛のジャンパーであった。

幻想哲学小説「創造者」ミュノーナ 通販開始お知らせ

文フリ東京24、たくさんのご訪問ありがとうございました。
当日初売りの「創造者」通販開始致します。

幻想哲学小説「創造者」B6 132p 900円
カント哲学に溺れたマッド・サイエンティストに、自我の世界を究極まで拡大されると、如何なる結果が現れるか。実験材料にされた男女の物語。表紙に描かれたクービンの挿絵が何をあらしているのか?
技術とオカルティズムの破天荒な融合がここに驚くべき結末を迎える。
通販申し込みは こちらから

5/7文フリ東京 初売情報 黒死館附属幻稚園 TRC カ59

幻想哲学小説「創造者」B6 132p 900円

今回の紹介作は、独の哲学者にしてアヴァンギャルド文学先駆者ミュノーナの作品です。
夢の中で出会った引き籠もりの中年男性と美少女が、現実の世界で偶然出会う。まるで天の配剤かのように見えたが、実は最初から彼女の叔父の企んだ実験の始まりであった。
なんだかワクワクするようなロマンチックな出だしなんですが、この奇妙な叔父さんとんだ食わせ物で、ひかれ合う二人を使って人間存在の最奥を極めるという、自分の哲学の実現を目指すのです。
最初は反発していた姪っ子も叔父と中年男の奇妙な神秘哲学談義に引き込まれ、ファウスト気取りの叔父さんが、建物ごと建造した最新技術を駆使した立体映像装置で、人間を至高の存在とする実験に協力することになるが……。

ここから先の驚異の展開は、是非お買い求め頂いたうえ、叔父さんの独りよがりの哲学談義をかいくぐって皆様の目でお確かめ頂きたいと思います。何故中年男が引き籠もりだったかの謎も最後に告白されます。
この奇想溢れる作品全編をアルフレッド・クービンが飾っております。
どうか皆さんお楽しみに。