青木正兒 と『もやしもん 』

前回の日記、あの広告を見て、K氏が「あの居丈高さにムッとした」ということだった。一度そんな広告を書いてみたいと思っていたので、その反応に大喜び。とはいえ、同じ様な感想を持たれた方に、一応頭を下げておきます「ごめん」。
で、早速、記憶のアヤフヤにならないうちに〈MYSCON9〉の不完全レポートをと思ったのだが、先日『サバト恠異帖』の書影を送ってくれた友人の日記で、平凡社東洋文庫版『中華飲酒詩選』の記述があったのでちょっと、路線を変えてみる。いま手元にある筑摩叢書版のそれを開いたところ、巻頭、「再版の序」で、自身の著書の読者傾向を述べたあとに素敵なコメントを発見した。

然し、黴と云ふものは吾々酒徒に取っては大切なもので、黴が無ければ酒は出來ない

というくだりだ。最近のように〈食の安全〉がかまびすしく、まるで、菌全体が敵視されているときに、まさに我が意を得たり、の感であった。
最近の我が家で流行っている言葉に「かもす、かもす」という囃し言葉がある。冷蔵庫に保管していた漬け物の匂いが変わったり、食パンの表面に彩りが出たときなどに使われるのだが、そのもとは『もやしもん』という漫画なのである。『モーニング』系としては『夏子の酒』を超える酒漫画の傑作である。
ここに登場する主人公は酵母菌を始めとする善玉、悪玉?の菌達で、彼らの行動の結果が「かもす」なのである。潔癖症候群とも云うべき昨今、これくらい小気味よく酒と菌の関係を楽しく描いたものは、絶後のものだと思う。ここには『夏子の酒』の悲壮感はないが、酒への愛情がヒシヒシと伝わってくる点では、先にも描いた通り超越しているといってもいい。神麹齋氏に気に入ってもらえるかどうかは、わからないが、一度お目を通されたい逸品なのである。