It's a phisical Mystery Tour 20101226

修羅場の真っ最中、突然K氏から十二月二十六日の予定を訊かれた。勿論入稿作業で目の前は真っ暗だし、入稿後のことまで考えていないから、取りあえず何もないと答えた。じゃあ、その日はミステリー・ツアーだからと応答があって、会話は終わった。
何とか入稿も終わって一息ついた頃には、K氏から色々仄めかしが出てきたが、何でも、横浜方面で船に乗るらしかった。折角なので、深く探ることもしないで当日を迎えた。
昼間、映画を一本見て、その足で錦糸町から総武快速で横浜へ向かった。集合は十七時半なので、中華街で飲茶でもという予定だったが、途中でトラブルが発生し、新川崎を出た途端に電車が止まった。なんでも、対向する電車に異音が発生し、その点検のためだという。
まんま、ミステリーどころかサスペンス・ツアーに早変わりで、K氏の顔色もだんだん暗くなってくる。結構長い停車に、車中でも行き先と連絡をする人が増えてくる。本当に先方に遅れを連絡する必要があるか、という矢先、何とか電車は動き出した。原因は分からないまま、異常なしだったそうだ。やっとの思いで、石川町駅にたどりついたが、もはや飲茶どころではない時間で、店頭で売る中華まんを頬張りつつ山下公園から大桟橋に出た。

氷川丸のライトアップや、前に見える、MM21の夜景がいくつになっても嬉しい。そんな自分の嗜好を知っているK氏が見付けてくれたのがこれだった。
集合地の大桟橋乗船ロビーでは、他のクリスマス企画のミニのサンタ嬢がまぶしく並んでいて、こちらの、椅子の上にライフジャケットが載っている地味さ加減と対照的である。K氏の情報によると、えらい小さな船で、アルコールは勿論軽食などは論外なんだとか。それにしてはカップルや若い女性同士のグループもいて、運河から工場の夜景を見るという、地味な企画の割にはまずまず華やかな客層なのである。
予定の十八時きっかりに誘導されて乗船場に向かうと、着岸してきた船が確かに小さい。事前情報から、甲板の方が寒いが楽しいと聞いていたので、乗り込むと船室には入らず後部甲板におかれた椅子に陣取った。夜の横浜港を、港の方から見られる機会などというものはそうないから、出航した途端に乗船客の眼が光りはじめる。大桟橋、MM21をすぎ、ベイブリッジ大黒埠頭、つばさ橋とグングン通り過ぎてゆく。何でもこの船は羽田の飛行場のD滑走路建造に使われていたものだそうで、とにかく早い。目的地までは高速ですすみ、鑑賞する工場夜景の前では停止する余裕を作るらしい。思ったより風もなく波も穏やかだった。

とった写真

本当はこう見える(上記ネットから転載)
製粉工場、火力発電所、製鉄所、石油の精製工場と日本の背骨の様な施設の夜通し働く姿を海から見るというのは、何とも素晴らしい経験だろう。遠距離通学帰りの電車から鶴見付近の精油塔の灯りをみ、幼児期には工場地帯の中心部で育ち、道路に落ちたコークスを薪の替わりにし、いま、埋め立てられた扇島に海水浴に行った経験を持つていた素天堂には何とも感無量の思いだった。
たっぷり堪能した夜景クルーズだったが、乗船客の反応に気をよくした船長の好意で、さらにサープライズが待っていた。到着時間を延長し、着岸地の手前MM21の中まで小回りの利く、交通船「サンタ・バルカ」は入っていってくれたのである。真下で見る観覧車の迫力はまた格別で、象の鼻で着岸した時もまだ興奮が冷めることはなかった。


何とも素敵なミステリー・ツアーだった。ゆっくりと税関前から関内に向かい、ちいさなスペイン料理の店で舌鼓を打ったのはまた別の話だ。