こんな夢を見た

それが自分なのかもわからないその人物(どうやら男のようだ)は、不安の真っ只中で、胸に古い漫画の切り抜きの束を抱え、見知らぬ人に囲まれて雑踏の中を彷徨っている。売ろうとしているのか、棄てようとしているのか、どうしようもないまま袋にも入れずに抱えている、引き取り手のないその切り抜きは、誰の作品かもわからなかった。誰かと話して断られた形跡もあった。
確かに、そんな根元的な不安は、自分が長い長い間、ひっそりと持ち続けてきたものだった。人生の後半を過ぎて、こんな夢を見ることが出来る自分にすこし驚いている。
そんな夢を見ること自体、そんな世界から離れている証拠なのではないか。現在の自分は、自からの、小さな世界を持ち続けながら、人と会い、少しずつでも自分の世界を開いてゆくことが出来ている。次回のコミック・マーケットの申込書を書き、新刊の発送準備をしている自分だから見ることの出来る夢だったのだろう。思い出そう。おまえはこれだけ思う存分、おまえの世界で生きているのだと。そうさせて貰えるひとがいるのだと。