入山中のお供

ほぼ一ヶ月、寝たままということで、普段読めないまとまった読書を企てた。その一冊が、既述の『旧約聖書 文語訳』だった。さすがに術後は、読み切れなかったので、未読のままだった

天使の歩廊―ある建築家をめぐる物語 (新潮文庫)

天使の歩廊―ある建築家をめぐる物語 (新潮文庫)

を選ぶ。
思ったより建築がよく書けていたし、人に対する視線が柔らかく、とくに作中中程の「製図室の夜」は主人公の裡に隠された優しさが心地よいソフト・ホラーに仕上がっていた。その後は懐メロシリーズでクセジュのルイ・ヴァックス『幻想の美学』を読み返し、体力の回復後は、ユルスナール『黒の過程』を四日かけて読み切った。初版発行時に読んでから四十年ぶりの再読だが、主人公の狷介さと、波乱に富みながらその実、ぶれのない人生を堪能した。さすがに退院が迫ってくると、読書疲れで、談話室におかれた懐かしい西岸良平鎌倉ものがたり』で一服。