浅草橋に幻影を視る

9月1日、秋の始まりなのか、夏の終わりなのか、とにかく暑いその日がきた。時間に余裕があると思ってヨドバシでグズグズしていたら、いつの間にか十六時を回っている。大慌てで総武線で二駅、浅草橋まで向かう。駅からうろ覚えの方向を目指して歩き始めたが、どうやら曲がり角を間違えたようだ。携帯にメモした住所を確認して、番地を探す。イヴェントがいつも暗くなってからだったので、見当が狂ったようだ。目指す区画を曲がると先方にいかにもそれっぽい身なりの方々が路上でたむろしている。
見慣れた「パラボリカ・ビス」到着。早速二階の受付へ向かうと先客のSRのS田さんが順番待ちをなさっている。別室からは東さんたちの打ち合わせの声が聞こえる。国書の四十周年小冊子や『バベルの図書館』パンフレットを頂いて大喜び。それをネタに余計な事を喋っていて整理券を受け取るのを忘れる。S田さんと一緒に会場らしき所に入ったが、当然まだ設営準備中で追い出される。しかも入場には整理券が必要と言うことで、受付へ戻ると、お珍しいランギクさんと遭遇。S田さんと下に戻って路上で開場待ち中も昔話でちょっと盛り上がる。番号が後出しになったので、結局、狙った席はとれず壁際になってしまった。まだ喋っていると、なんと右隣に篠田真由美さんがみえた。
いよいよ演者が揃って席に着いたと思ったら、石堂さんが自己紹介もなくお話しを始める。今野さんから慌てて紹介が入って、まったりと開始、まず、東さんから、幻想文学会の成り立ちを解説。雑誌『幻想文学』と『夜想』の関係について今野さんからも面白い裏話がたくさん出る。そこから『幻想文学』誌におけるインタビューの存在について、今野さんから話が振られ、そのついでに、『夜想』でのインタビューの方法論が語られる。と同時に、初期の返品を床に並べ、上に布団を敷いて寝ていたという、在庫管理の極北体験を伺う。
出版的には徒手空拳に等しい存在だったリトル・マガジンでありながら、なぜ錚々たるメンバーとのインタビューが可能だったかを石堂、東両氏が語り『幻想文学講義』を形作った原型を明らかにする。種村さん、赤江さん、筒井康隆さんらの貴重な音声を聞きながらの贅沢な時間であった。
そのうちに失敗談の披露が始まって最初に取り上げられたのが、なんと、文字通り幻になってしまった、銀座某店で行われた「黒死館・座談会」の件だった。しかも、偶然隣り合わせた素天堂と篠田さんの名前まで挙げられ狼狽する二人。しかも、最後の質問で、その経緯を纏めることはできないかと言われたが、当日、それが明らかになったとき一番ホッとしていた自分としては、あんまり表沙汰にしたくないこともあって、「絶対に駄目」的な発言をしてしまったが、勿論それは、松山さんや篠田さんに責任はなく、座談会当日、大ファンだった建築探偵の作家との同席に舞い上がった素天堂の謂わば、酔うたがうえの無分別に対する自己嫌悪の現れにすぎなかった。もっと楽しい受け答えができればと、今になって再び後悔をする自分である。
文字通り裏話満載のオフレコ連発で、空調の効きの悪さも何のその演者の熱演に、汗だくで会場を埋めつくしていた聴衆も、きっとその件を除いては大満足の会であった。