蕭白の貘に会いに行く


先日の大阪文フリ参加にあわせて、神戸を訪ねた際、所用の合間に御影にある香雪美術館を訪れた。「曾我蕭白 鳥獣画の探求」と題した展観は、決して大きくはない会場だったが、パンフレットの主題でもある館蔵の「鷹図」を中心に、活動の中心だった伊勢での作品を幅広くテーマに合わせて集合させたものだった。
蕭白といえば、太く固い筆での雄渾な筆致が特徴だと思っていたのだったが、上記の館蔵「鷹図」と、白鶴美術館からの招請品「牡丹鷹図」の繊細華麗な筆遣いに魅せられてしまった。更にこの展観ではほぼ半分の前期であり、パンフレット中央に小さく挙げられた、伊勢朝田寺の板絵「獏図杉戸」は見られないということで、後ろ髪引かれる思いで、その時は隣接の洋館への未練と共に同館を後にしたのであった。
神戸での所用と、大阪での主目的を終えて帰宅した後も、気になり続け、自分一人で貘に会いに行くつもりだったのだが、結局その頃神戸に用事のあるK氏の手配で同行出来ることになった。ただ、今回はほぼ始めての単独行動になるということだった。着いたその日はJR芦屋でK氏と別れ、住吉駅からの六甲ライナーで、灘の酒蔵巡りを試みた。
ところが、駅を出た瞬間から雨に見舞われ、ろくにガイドブックも開けぬまま、駅前に表示のあった桜正宗の記念館を取りあえず目指すことにした。櫻正宗記念館「櫻宴」は2010年建てられた新しいものだが、展示された古い看板に山邑の名前を見付けて、芦屋で見た「F.L.ライトの迎賓館」の由来を思い出した。
まだ止まない雨の中、道ばたの案内図を見かけ、「菊正宗酒造記念館」が比較的近いので寄って見ることにした。こちらは本来、四時までの入場だったらしく、殆ど最後の客になってしまったが、かえって館内をゆっくり見ることができた。電車を乗り継ぎ、元町でK氏と待ち合わせ一寸仕事を手伝って、夕食代わりの居酒屋モードとなった。
翌日は一人の筈だったのだが、急遽、午前中K氏の手が空くことになり、ゆっくり宿泊先を出て、目的の香雪美術館に向かった。
後期は、比較的大きな貼り絵の屏風が多かったが、小振りな掛け軸にも面白いものが多かった。お目当ての「獏」くんは、茶色い板戸に向かい合わせに描かれた月に向かって吠えかけるような身振りと、細かく書き込まれた着物の模様のような毛並みがとても愛らしかった。他にも様々な動物たちが、画家蕭白によって奔放に活かされているのを見るのはまことに楽しいひとときだった。
前回、見逃していた「弓弦羽神社」を参拝することにして、館を出て南に折れた。石塀沿いに古い町並みと古木の残る路次を歩いて鳥居までいくと、表示はないが大通りの車道までが旧参道らしい。拝殿を後ろに幹線まで行ってみると、参道の入口に自然石の水神を祀った塔碑と、震災の犠牲者名をつらねた石碑が置かれた小さな敷地があった。
この神社は、創建849年という途轍もない歴史を持ったものだという。また、ここでも関東の田舎者は、関西の地力に驚かされてしまうのだ。
と、まだ時間の余裕があるK氏を誘い、御影駅の北側の気になっていたお蕎麦屋さんを訪れた。「ふくあかり」というそのお店は、東京でもそうは見かけない、本格的なお蕎麦の店で、結構ご当地での知名度は高いようだ。食後の一服を前に拡がる池のある公園でしていると、向こう岸に不思議な建物が見える。腹ごなしの散歩で歩いて行って見ると、小原流豊雲記念館だという。残念ながら閉館中で中は見ることができなかったが、この御影という地区も、探せば見所は満載のようだ。