大ナミックな大イングメッセージ! ダ・ヴィンチ・コード(上) (角川文庫) 他二冊

sutendo2006-04-21

前に書いた「アイヴィー・リーグ ルネサンス対決」で宿題になっていた「ダ・ヴィンチ・コード」文庫でやっと読んだ。読んでビックリ、主人公はハーバードの先生だったのだ。
西洋史の裏の“オカルティックな潮流”を題材にした冒険小説といえば、エーコの「フーコーの振り子」や、最近ではキャサリン・ネヴィルの「マジック・サークル」などが思い浮かぶが、この作品はもうちょっとわかりやすいし、何より面白い。だからこそ、こんなに話題になったのだろうが、題材の扱いは思ったほどいい加減ではなかったし、キチンとお勉強して波乱に富んだスピーディーなストーリーにはめ込まれているから、“不思議な歴史”のお勉強にはなるかもしれない。だから、いろんな突っ込みが入るのだろうし、「レンヌ・ル・シャトー関係」のおじさんたちから“盗作”呼ばわりされるのも、有名税の一部だとおもうが、巻末の協力者か参考文献にあのおじさんたちの業績を取り上げていれば、こんな騒ぎにはならなかったかもしれない。作者としては、もう二〇年も前の話題だし、常識になっていると思ったのかもしれないが。素天堂のような不真面目なオカルト・ファンにとっては、あの話題などは「トリノの聖骸布」にまつわる話題と同じ、ルポルタージュの体裁をとってはいても、フィクションだと思っているので、当人たちが“盗用”でなく“盗作”でこの作品を取り上げたのは当然だと思う。下世話にいえば、「下敷きのネタ代」ぐらいは払えということだろう。
しかしながら、この作品の魅力は言い古されたレオナルド・ダ・ヴィンチの絵画についてや、「シオンの修道会 もしくは聖堂騎士団」にかんして新しい視点で取り組んでいる、といったことにあるわけではない。多分作者自身のいっているとおり、その筋の人にとっては或る意味“定説”にすぎないものだ。それらの素材を存分にいかして、一部の魅力的な敵役のキャラクターと、目新しい話題性を組み立てた作者の着眼の良さにあるのだと思う。
なにしろ、世界に冠たるルーブル美術館に大の字に横たわる全裸のダイイング・メッセージから物語は語られるのだから。うーん、これはすごい。いわゆる凄惨な死に様は「レクター博士の所業」以来当たり前になってきているけれど。そこから始まる、大サービスの暗号解読も楽しいじゃあないか。なにしろ「the Mona Liza」だからね。あとは、不必要にダイナミックな作者のストーリー・テリングの大波にのっていけばよろしい。或る意味、この作品は通俗冒険小説の正当な後継者であり、いわば美術館を舞台にした「インディー・ジョーンズ」なのだから。最後の方で語られる「関係者」の言葉が、妙に甘っちょろく、とうとう探していた“謎”がうやむやのうちに終わったとしても、それは「伝奇小説」の定番としてのあるべき形なのであってそれ以上でも以下でもないのだ。
それにしても文中連発される「ダ・ヴィンチダ・ヴィンチ」はいかがなものだろう。誰か「奥の細道」の作者を「松尾、松尾」っていいますか。