げんそうとかいき

今週の日曜日、二十二日はK氏の発案で「弥生美術館」と、東大散歩にいった。久しぶりの根津では地図を見てもまったく土地勘がわかず、K氏の道案内に頼りっぱなし。急な坂を上りながら、自分の思っていた方と反対に曲がって目的地に着いた。前を歩くおばさま連中の歩みの遅いのに業を煮やし、こいつらのせいで入場が遅れるかと思いきや、美術には興味がないそうで、あっさりこちらが入れました(じゃあいったいこの人達は何しにここまで来たのだろうか?)。開催中の「生誕百年記念 竹中英太郎と妖しの挿し絵展〜エロティシズムとグロテスク・・・闇にきらめく妖美の世界〜」という長〜いタイトルの展覧会は、たくさんの美しい原画と、当時掲載誌の展示で、当時の製版技術にまで思いをはせたものでした。
「印刷されてはじめて価値を生み出す〈商業美術〉としての、版下絵にはそれなりの技法がある」そんなことを話しながら、でもやっぱり、原画は美しかった。
乱歩『陰獣』正史『真珠郎』他の画家では谷崎・水島爾保布『人魚の嘆き』矢田挿雲・橘小夢『沢村田之助』etc。複製を見たことはあっても、やっぱり、あれだけの『新青年』をはじめとする、掲載誌は当時の雑誌の持つ雰囲気の違いを伝えてくれて、楽しかった。また、父・英太郎と、その息子・労の仕事との、不思議なコラボレーションも、好き嫌いは別にして、ちょっと羨ましい。
「夢二美術館」では、彼と音楽についての特集展示「竹久夢二 音楽デザイン帖 〜抒情のリズム、大正ロマンの調べ♪〜展」が面白く、商業美術とは別の系列の肉筆絵のデカダンスは筆勢に迫力があって、対象にしているモデルとの交流がにじみ出てくる情感が、必見とはいえないかも知れないが、やっぱり見る価値はあった。
それから真ん前の弥生門から東大を〈権威と威圧の集積を、あちこち覗きながら〉抜けて、赤門からでて、軽い食事を済ませて、本郷三丁目から都営大江戸線で大門まで遠征。
訳あって増上寺境内の地蔵さんを拝観にいく。もう二十年ぶりだろうか。それにしても壮観であった。ノンビリと小雨混じりの中を新橋まで歩いて(途中の新古本屋に立ち寄ったり)、駅前の「酔心酒場」で一服してご帰還。
久しぶりの幻想耽美怪奇まで含んだ、充実した一日であった。そう出がけに見てしまった、久しぶりのNTV『波瀾万丈伝 荒俣宏編』も含めて。