Die Konigin in Wire Action 雪は敵同士を包み、雨はすべてを洗い流す。

十数年ぶりに日比谷で映画を見る。『魔笛』をケネス・ブラナー第一次世界大戦を舞台に映画化したものだというので、興味津々、日曜の早朝だというのに、K氏を引き連れて出かけてきました。
序曲に乗って西部戦線塹壕が拡がる荒野、ズームしていって主人公のタミーノ役者が塹壕を飛ぶ蝶を捕らえるところから映画が始まった。『西部戦線異状なし』へのオマージュ。おぼつかない手でピストルを使う前線での戦闘から、原作での大蛇の変わりにおそわれる毒ガスまで(ちゃんと蛇のかたちをしてた)、無理なく当時の小道具が使いこなされている。塹壕内での毒ガス検知に使われていたカナリアの管理をするパパゲーノのキャラがいい。三人の侍女の登場は従軍看護婦姿、これもいいのだが、なにしろ、見てくれを褒められるタミーノ役者がイマイチなのだな。もともと性格のはっきりしない優柔不断のキャラが、思わぬ試練を経て思い人と結ばれるという、いわば定番のメルヘンなのだから、もうちょっと見てくれのいい役者のほうがよかったんじゃないだろうか。
お目当ては、〈夜の女王〉。雷鳴に乗って登場すると思いきや、轟音は戦車だった。大笑い。そう、映画的ってこれだよ!この迫力に当然タミーノくんは圧倒されっぱなし。いつの間にかさらわれたという女王の娘パミーナに岡惚れしてしまう。ここからがいわれなき災難と信じられない試練の始まり。
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当然ながら、オペラのストーリーなどというものは、原作付きならいざ知らず、オリジナルの作品(「魔笛」はその代表)としては、作劇的に大きな問題(たとえば通俗性)を抱えているので、それを怒るか、無視するかは結局見る側にゆだねられる。ここに描かれた戦争も平和もすべて、おとぎ話。これまでの、このオペラに対する評価の揺れは、いつでも音楽的な問題と文学的な問題のせめぎ合いにあったのだ。
ストーリーはもう固定されてしまっている以上、後はそれを映画的にどう処理するかであろう。だから、素天堂としては、ブラナーの茶目っ気溢れるお遊びが楽しかった。女王の二度目の登場が地味だと思ったらパミーナは風車に縛られるし、本人は飛ぶし。三人の童子も、三人の侍女も魅力的だったよ。
前線の雪は敵同士を包み、主人公たちの浴びる雨はすべてを洗い流し、彼らに新しい道を指し示す。いいじゃありませんか、お約束で。