悪魔も生まれて育つもの シンベリについて

前回書ききれなかったのだが、悪魔といえば、某ロック歌手の自称する通り、万単位の年齢が重ねられていて、その出生については問題にされるようなことはまずない。例えばベールゼブブの出生を気にしたことなどある人があるだろうか。だから、悪魔にも母がいて、その母の乳で育つことさえ閑却されるのが実際問題なのである。悪魔という、本来、神=人類に敵対する存在も味わっているはずの、産みの苦しみ、育児の苦労などの大問題は、我々人類によって、あったとしても、無視されてきたのである。人間だって苦労するのだから、悪魔だって苦労するだろう。コラン・ド・プランシーの「地獄の辞典」であっても、悪魔にとっての最盛期の地位にしか言及がない。
生まれたときには、どれだけ、切ない思いをして、母親の胸に抱かれたことか。この絵を見れば、母悪魔の腕にかかった幼い悪魔クンの体重も、体温も、柔毛に包まれたその柔らかささえ伝わってくる。母悪魔の訴えを聞く、農家の女将さんの空っぽのひしゃくだって、上げられないミルクの困惑が見えて来るではないか。やさしいと書いたが、こんなかわいい悪魔が、この画家以外にあったろうか。ましてや、死のおじさんと戯れる、幼い悪魔たちの感じを何処かで味わったことがあっただろうか。こうやって、シンベリの深みにはまっていく素天堂なのであった。