ボマルツォから遠い昔へ

先日買った鹿島出版会『イタリアのヴィラと庭園[rakuten:book:10674525:image]』。庭好きの素天堂にとっては必読文献でありながら、なぜか手に取りづらい本だったのだが、開いてみて驚いた。数多の名園に混じって、あの「ボマルツォの怪獣庭園」が取り上げられているではないか。そこでは今まで見たこともない明確な地形図と、詳細な庭園の鳥瞰図がある。

現在でこそ無名な存在ではなくなりつつあるが、数百年に渉って埋もれていた存在だった。それがダリやマンディアルグを始めとするシュルレアリスト達によって〈発見〉されて半世紀を過ぎて、庭園の研究書に、取り上げられているのを見るのは、結構感慨深いものがあった。
その名を初めて見たのはご多分にもれず、G・Rホッケの先駆的名著『迷宮としての世界』であった。高校時代に出会ったその本は、金欠の度に食事代に変わって、何度も何度も買い直した本なのである。最初に売った本屋のオヤジさんが、ビニールカヴァーのとれたそれを売りに行ったとき、ビニールカヴァー1枚で本の値段が変わるということを教えてくれたこともあった。その溝の口の駅前に出来たばかりだった最初の古本屋さんで、当時入手の難しかった岩波文庫版『金枝篇』の一冊を見かけたとき、「お兄さん、そういう本を一冊だけ買うのはよした方がいいよ。絶対他の巻が欲しくなるから」と、諭されたこともあったりした。

まあ、年月が過ぎていま手元にあるのは某美術系女子大学の図書館の廃棄本なのである。たくさんの学生達の好奇心を満たしたその本には、製本の弛みを補強する綴じ糸のためのパンチ穴が開き、当然だが、あの三島の絶叫するが如き推薦文の箱もない、表紙や小口は手ずれとシミだらけなのだ。本来くずかごに直行に思えるこの本が店頭に出たのは、やっぱり、この本の内容のせいだったのだろう。
ご覧の通り表紙を剥がし、装幀を補修していま手元にあるこの本は、今となっては、図版もモノクロだし、いくらでも類書があるかもしれないが、その後、あるところで、種村さんのマニエリスムに関する連続講義を直々に受けるという幸運もあって、自分にとっては宝物なのである。ボマルツォも、パルミジャニーノもすべてはこれが始まりなのである。