天国と地獄の美女

とっても疲れているK氏のリクエストで、彼女秘蔵のDVDボックス「江戸川乱歩シリーズ17 天国と地獄の美女〈副題 江戸川乱歩の「パノラマ島奇談」〉」を鑑賞する。お正月特番だということで、いかにも一夜の夢にふさわしい華麗な題材である。主人公の一人、菰田の妻(叶和貴子)と、訳の分からないミラーボールの下での、妙に熱っぽいダンスシーンがあったりするのも、いわばこのシリーズでのお約束なのかもしれない。原作は三人称とはいえ、ほとんど主人公個人のグロテスクな妄想世界と、そこに至る行程のみを詳細に描いたもので、全編を覆う絵画的なイメージにもかかわらず、映像化は不可能に近い。そんな乱歩の代表作を、映像の職人井上梅次と、練達のシナリオライタージェームス三木のコンビが、テレヴィ枠という制限の中で再構築して見せてくれる。
探偵映画といえば原作の題名と主人公の名前以外は、全くストーリーの関わりのないものが多い中で、このテレフィーチャー版では、原作にないオリジナルな人物と、あっと驚く主人公側にいる人物を改変することによって、ラストの人間花火を含めて、原作の持つ、ある意味偏狭で安ピカなディレッタンティズムを排除して、キチンとした、ギャグさえ感じさせるドラマに変化させることに成功している。たしかに、失笑気味ではあるけれど、乱歩の意図に忠実な、結構真面目なドラマ化であろう。それにしても、地底水槽の水族館、乳首モロ見えの裸女群像といい、二十年前の作品とは思えないデラックスな大胆さである。ウーン、少年ものを含めた乱歩作品に、何故かパロディやパスティッシュが少ないのは、通俗的な人気の中で映像化される全ての作品が、期せずして、こんな風に真面目なパロディになってしまうからなのだろうか。