残したくないのに……

ミステリチャンネル」で録画して置いた「探偵講談」を見る。
あの日の前田邸での口演である。熱演する南湖さんの前をチラチラ上下し、話に水を差し続けるうしろあたまの恥ずかしさ。カメラはきらおうとするのに、何故かトリミングに入り込み、南湖さんの絶妙の語りにアクセントをつける。トンスラと呼ばれるあれが南湖さんの語りを残そうと思えば一緒に残るのだ。講壇の真ん前に居座り、絶妙の話芸に受け続ける、あのおやじの、あの頭こそ、一世一代テレヴィジョン画面に残されてしまった素天堂のメモリアルなのである。
新日曜美術館」で「ウィーンの特集」を見る。
池内紀氏を中心に繰り広げられる高踏的な美的ウィーン論のさなか、繁華街のカフェテリア風のアイスクリーム屋さんが映る。何で狭いとはいえ他に広場はなかったのか。まさか、向こう側に置かれたスプーンを探しもせず、タップリつけられたウエハースを使い、この国の流儀だと思ってアイスクリームを食べていた、クンスト・フォーラム前のあの店だ。忘れもしない他国での。買い方も分からずスーパーで買ったトマトの値段を、いっても判らないだろう外国人の買い物を、カウンターを飛び越して、売り場に行って確かめてきた、あの兄ちゃんのかっこいい跳躍と共に、忘れられないあの異国での赤っ恥を思いださせるあの店を、この番組と共に手元に残さなくてはならないのか。