地の利を生かして


十三日の金曜日夕、不吉な日柄をものともせず、職場の近所ということもあって、家にいたK氏と「深川いっぷく」を覗いてみた。
あまり大きくないスペースを最大限に活用しているせいもあるが、翌日の「いっぱこ古本市」の準備で大わらわ、奥のブースにある目的の日月堂さんの「紙もの展示」に辿り着くのがちょと大変。然し、壁面を飾る〈紀元2559年〉の珍品カレンダーに驚き、ブース内の断裁前のマッチラベル紙に驚く。どこの工場で作成したものやら日本全国のそれこそありとあらゆる職種のマッチラベル紙が混在している。加工過程が偲ばれる意外な見物であった。〈使える〉とキャッチにある通り、デパートの包装紙や、本屋さんのカバーなど、いかにも日月堂さんの確かな目が感じられる展示である。
然し、素天堂にとっては「日月堂」といえば、古いパンフレットや地図なので、何でないんだと思ったら、ブースの外に通常展示に紛れるような感じで、それらのお宝は〈無雑作に〉ひっそりと積まれていた。洋雑誌の切り抜きや古いカタログの図版などと共に、何と「大阪 松竹座」の名高いプログラムが大放出!何で、これを目玉にしないの日月堂さん。

「大阪 松竹座」といえば、大正末期から昭和にかけて、ショー・ビズ関係の展示会があれば筆頭にあげられるビジュアル重視の映画館であった。そのプログラムが数十点。他の大判切り抜きに混じってヒッソリと積まれているではありませんか。しかもクリアファイルに挟まれて、一点、一点内容が確認できる親切さ。いわゆる、表紙買いしか許されないビニ本扱いが多い、古・紙ものが多い中で実にありがたかった。目を据え、狂気のように一点一点を開き確認し、できれば買い占めたい気持ちを抑えつつ番組をチェックする。松竹少女歌劇の詳細なプログラムや、エリアナ・パブロバ(戦前から日本にいて、もう一人のパブロヴァと呼ばれた白系ロシア人バレリーナ)の公演や、日本洋舞史に名を残す高田せい子が、まだ原せい子だった頃の公演情報などお宝情報がぎっしり詰まったそれを涙ながらに無視して、買ったのがこの一点であった。表紙は残念ながら松竹座っぽくないブロマイドの複製なのだが、中身はここで取り上げたあの映画の監督挨拶が巻頭に載ったもの。

しかも『新しい土』と併映が、セレナ役を振られたマルタ・エッゲルトの新作なのである。

素天堂がこんな事を書かなくったって、もう一度覗いた二日目の盛況はご承知の通りだが、店頭の「いっぱこ」が目当ての方も是非ヒッソリと積まれたモダン宣伝美術の最先端「松竹座のプログラム」は是非見てあげて下さい。こういう機会はそうそうないのでしょうから。