ウィリアム・テルが序曲だった

全編をうがいのリードで終始する、空前絶後の音楽ギャグ『ウィリアム・テル序曲』が、アメリカのバンド「SPIKE JONES & CITY SLICKERS」によって演奏され、日本のジャズマン、フランキー堺率いる「シティ・スリッカーズ」がそのスタイルをコピーする。
彼のバンドにいた何人かのメンバーを含めて、「クレージー・キャッツ」が結成。そこから非音楽のフジテレビ『おとなの漫画』 が企画されて音楽を演奏しないジャズマンによるギャグというジャンルが発生した。素天堂は昼の5分のために学校を度々休んだことさえある。
バンドマンの悪ふざけは、楽屋を抜け出し、画面に登場し、日本テレビシャボン玉ホリデー』が出来上がる。音楽での中心スタッフだった宮川泰のギャグ偏向は、彼を中心に企画された、後の『題名のない音楽会』や『タモリの音楽は世界だ!』での壮烈なパフォーマンスで、素天堂には印象的だった。だから、『ゲバゲバ90分』のあの勇壮なマーチが彼のオリジナルであることが40年経って、「キリン のどごし<生>」PRサイトでわかった時、眼からポロリと鱗が落ちた。
膨大なギャグ作家群と、製作陣の真摯な姿勢で造り上げる、個人芸でない、乾いた笑いとしてのスラップスティック・ギャグはこの番組『ゲバゲバ90分』で、大成し、そして消滅する。そうして、ビデオのない時代だったから、長い間、記憶の中だけで〈チャンチャンチャンチャンチャチャチャチャーン〉のメロディとゲバゲバおじさんの〈PI!〉が残った。そしてブラウン管の中では、ただの繋ぎだった筈の「あっと驚くタメゴロウ!」に代表される陳腐な決まり言葉で笑いを取る、ギャグとは名ばかりのコント芸が増殖してゆく。
と思っていたら、19日、下の部屋でK氏の作業中見ている番組が、『ゲバゲバ90分』に関する番組だという。どうせ見当違いの思い出話だと思って聞き流していたら、ひょっと覗いて驚いた。ザラザラに荒れた画像ながら、なんと〈本物〉の『ゲバゲバ』ではないか。日テレの倉庫から、古いオープンリールのヴィデオテープが発見されたそうな。とうとう外出の予定も変更して、最後まで食い入るように見つめる素天堂を横目で見て、その場で、DVDを発注したK氏。今晩届いたそのパッケージは、開くのももったいなく、棚に飾ったままだ。さて何時、どうやって見ることにしようか。