『世界最古のもの』ヴィリ・ザイデル bibliotheca puhipuhi Nr.9

文学フリマから三週間。やっと、この本を読めた。冊子とはいえ百三十ページを超すボリュームである。
以下のように、何とも、ぎこちない感想になってしまったが、実際の作品はずっと滑らかで、最後の終焉まで引き込まれていく。さすが、ビブリオテカプヒプヒ最新刊である。訳者の言う〈ウルトラQみたいな〉という形容の通り、〈人間の持っている根元的な欲望〉を怪物として表現したあの名番組と共通しているところがあると思う。
野原での動物たちの牧歌的な争いから、奇妙な予感を感じた可哀想な主人公の少年が巻き込まれるのは、超古代から地球を覆っていた巨大な悪意との戦いである。物語は確かに古風な西洋怪談風に始まる宇宙怪談なのだけれど、じつは結構珍しい、当時西欧を覆っていた「黄禍論」を具体的に表現した作品なのである。
西欧を遙かにしのぐ東洋の歴史に敬意は持っても、距離は置きたい精神状態、何を考えているかわからない思考形態の違いから起こる黄色人種への恐怖感は、東洋との関係が深くなるに従い、更に東洋の島国日本と大国ロシアの戦争で日本が思わぬ勝利を収めたこともあって、十九世紀末から二十世紀初頭に最高潮に達したのである。あのピーター・セラーズクリストファー・リーの当たり役「フー・マンチュウ」だといえばおわかりいただけるだろう。
文中登場するもう一人の主人公〈施シー博士〉に対する描写を見てもそれは明らかだ。
鄙びたドイツの森でアルマジロに出くわしたのも同然」なのは「まごうかたなく蒙古人種モンゴリアン」であった(それにしても、何という形容か)。彼は読心術を操り、少年が博士の意志に逆らおうとすると、部屋のランプの〈絹の傘〉に博士の黒い二つの目が浮かび上がらせる能力を持っている。東洋の神秘を具現したこの博士は、有史以前に地球に落下したある惑星の持つ邪悪な意志を、現代によみがえらせようとして、少年をその協力者として使役する。何とも可哀想なのはこの少年で、さんざん使われたあげくに悪意の犠牲にされてしまう。
少年を使って隕石の全貌を顕したものの、実際に出現した宇宙の悪意のあまりにも強力なために作業を中止しようとするが、さすがの謎の中国人科学者の解読した、超古代の智慧によっても制御しきれない羽目に陥る。そうして、太古から眠っていた宇宙からの強力な意志によって、人類の破滅が始まっていく。
悪意の固まりの隕石が、ニッケルKupfernickel (悪魔の銅)という語源を持つ金属だというのも象徴的だ。東洋の狡猾を絵に描いたような〈施博士〉は、制御不能に陥り少年の血の犠牲で収まった隕石を、現地の工場に銃弾の材料として寄贈して、何処ともなく消えていく。作者、予言者ザイデルが亡くなって数年、悪魔の銅から造られた銃弾は、その国から殺戮の連鎖が拡げられ、その後のヨーロッパ、さらに世界中を巻き込んで席巻してゆくのである。