陽光の下、江東を歩く

この二週間、室内作業や、神経を使う作業が続いたので、「せっかく慣れた足が、また鈍るね」というK氏の一言から、久しぶりに地元歩きをしてきた。目標は区内の名所「清澄庭園」である。都営地下鉄なら一駅、三十分もかからないのだが、今回はわざわざ運河沿いの遊歩道を伝って訪ねることにした。コースはクローバー橋から横十間川沿いの遊歩道を南下し、四谷怪談隠亡堀跡の岩井橋下を通って、仙台堀川公園隅田川方面に向かう、酔狂な遠回りである。昼食を清澄についてからとるつもりで、少し早めに家を出た。厚手のシャツ一枚と、春用のブルゾンの軽装だった。カメラを忘れるなという、K氏の注意を聴く。
表に出ると、先週までの暖冬に似合わぬ寒さが一転して、春の日差しが暖かい。いつもは自転車で、用事の時に使うくらいだったが、実際に徒歩で葛西橋通沿いまで歩くのは遠かった。満潮で、ヒタヒタと遊歩道にかかりそうな水面を見ながら、木々の若芽を見上げたり、河の向かい側に置かれた小さな河童を見て仙台堀川へ出る。色々工事中だが、何とかコースは続けられるようだった。右に曲がり、園路を歩き始めると四つ目通の下を潜る遊歩道が閉鎖されている。やむを得ず一般道へ上がると、少し前に酔っぱらって自転車を転がし、突っこんで眼鏡を壊した植え込みの脇に出た。
前はしょっちゅう使っていたガストの脇からまた仙台堀川公園へ戻る。ここでは無料の釣り堀があって、近隣の小父さんたちのオアシスになっている。それを過ぎるとまだ芽吹いたばかりの桜の並木が続く。六年間、仕事の合間に見てきたところだが、やっぱりくつろげる、いい公園だ。大門通りから木場公園脇を通る大横川までは暗渠なので、公園の終端は大きな溜池様になっていて、ハゼなどの泳ぐいい釣りスポットになっている。まだ稚魚の誕生には早かったようだが、四月を過ぎると速い流れは彼らで埋まり、それを狙う鳥も集まって結構楽しい見物だった。そこから、木場公園を斜めに横切り、三ツ目通を渡って、深川資料館の通りへ出る。その頃には背中に当たる日差しが、上着を脱がせていた。
そこから、清澄の通りに出ると、前から気になっていたモダン・スタイルの残る商店街が見える。ここでカメラが大活躍。K氏相手におぼつかない建築知識を振りまくが、実際はアヤフヤなので帰ってから確認すると、近代建築の愛好者には有名なスポットなのである。
東京市営店舗向住宅
写真を撮り終わって食事でもと思ったが、目当てのお店はランチがないということで、結局、前に近辺にすんでいた頃良く通った中華屋で昼をとった。出された瞬間驚くような、とにかく盛りのいいチャーハンを食べて、いよいよ本日のメイン・イヴェントである。
清澄庭園は、以前は毎日脇を通っていたけれど、キチンと入場するのは二回目だ。前回は園内で切り紙のアトラクションなどもあって、楽しかったのを記憶していたけれども、今回は、思い切り凄い、池に浮かぶ松島に集まったカモメのイヴェントに圧倒された。

あまりの迫力に、ニコニコしながら園内を巡回して裏側の自由広場に出ると、濃い桃色の寒緋桜(緋寒桜ともいうらしい)が数本、見事に満開だった。

庭園の見晴らしとしては、前回書いた、伝法院の秘苑には及びもつかないけれども、常時公開のいろいろな性格の公園を持つこの街は、住み慣れるに従って少しずつ良さが伝わってくるような気がする。ゆっくりノンビリ池を巡り、清澄通側に出ると、先ほど堪能した古い建物群の様々に改装された裏側が見えるのに気づいた。何でも、その敷地はもともと岩崎家の借家だったそうで、公園と通りに挟まれた立地条件も納得できる。

充分満足して表に出ると、K氏がもといた町のケーキ屋さんで休もうという提案を受けて、現代美術館脇を通り、あのケーキ屋さん「ヨーデル」でゆっくりお茶をして帰ったのであります。何時いっても花一杯のこのお店の存在が、当地に移って本当によかったと思える、理由の一つかもしれない。それにしても、足は鍛えた積もりの半年だったのに、たった二週間でもと帰りして、結局翌日は身体痛いだったのは、なんと情けないことか。