金城湯池我が事に在らず

新職場へ通い始めて、約2週間。毎日毎日乗り換えている神保町という駅なのだが、新職場の流れにやっと乗っているのが精一杯。とてもではないが、地上へ上がる気力もなかった。先週、一度上がってみたが、小雨に煙る靖国通はまるで異国のようであった。そんな中やっと、体力が回復したので本日、幻の地上へ上がってみた。何とそこは古本者の楽園すずらん通りではないか。小宮山を覗き、田村の前に堆く積まれた全集端本の山を見下ろして、買うともなくウロウロと歩き回っていたら、某有名古書肆の店頭に、あの世界人生論全集が! もしやと思って近づいたらなんと、あの『医師の信仰』の収録巻があるではないか。やれうれしやと手を伸ばせば、先人の冷たい一言、「それ私の」。一瞬で、幻の探求書は再び霧の中へ消えていった。今となっては、その店に先に行けばよかったとか、いろいろ言いたいこともあるのだが、結局、湯池の恩恵の滴を浴びようなどとは、まだまだ先のこと、長い人生である。いつかまた巡り会えるであろうと、今、ヒッソリと、一人慰めている次第である。