弛緩と緊張

開放感たっぷりだった前職の外気の下での職務が終わって、一転して広大な空間に閉ざされた閉塞感の中での作業が始まった。習熟に向けて、新しい筋肉の活動が始まっている。前職の過酷ともいえる長歩きに比べれば、拘束時間も短く慣れてさえしまえば、また、余裕も出てくるだろう。暫くは新職場での訓練が続く。
就業からの長かった七日間が終わって待望の休日、ゆっくり起きて流れているテレビ画面を見ていると、何と、マルタ島の紀行番組である。地中海の東寄り、伊太利半島の長靴が蹴飛ばした小石の様な、小さな島国。当然魚介類が豊富な食料のお国柄(ヨーロッパでは珍しく蛸を食べるお国柄らしい)と、地中海特有の国際関係を象徴する聖ヨハネ騎士団の遺跡が見事。見終わってゆっくり、掛かり付けの医者で定期の診療に出掛ける。雨も上がって久しぶりの自転車外出。
帰ってから、来月初頭のイヴェント向け下準備をK氏と進め、風邪気味の身体を休める。枕頭で、届いたサートンの最終巻をノンビリ通読、中世末期、怒濤の十四世紀後半の見事なダイジェストを堪能する。当然登場はしないが、イタリアの小さな村で、もうレオナルドは生まれていたのだ。最後と言うことで次世紀にかけての言及と、学業におけるサートン自身の心構えなどが随所に零れだして来る。科学史に対峙する際の著者の優しい眼差しが感じられてうれしい。大好きだった授業(そのくせ出席単位が不足だった)のレポート作成で籠もった高校時代の図書室から、ずっと背表紙を見続けてきたこの本と、正面から取り組めたこの一ヶ月を振り返ると、たとえ不安でいたたまれなかったとしてもやっぱり、あってよかった休みだったのかもしれない。