時代遅れのバッタもん? 神保町でプチ天使現る

二ヶ月ほど前、折角神保町経由の通勤が始まったのに、良いことがないなどと書いたものだ。とは言っても持って生まれた性は如何ともしがたくK書店の金、土、日のガレージ・セールを覗いたり、パン屋を探して、美術書の源喜堂に辿りついたり、少しずつウロウロしていた。勿論、それだけで済むはずもなく、表に廻って何軒かの店頭の処分棚を覗いて帰るようになる。当然何時もいい物があるはずもないから、無い時は一冊も収穫がなかったりする。今更金城湯池でもあるまいと、ふて腐れかけた先週の土曜日。まあまあの収穫でのガレージ・セールの帰り、M倫館の店頭をひっくり返してとんでもないものを、拾った。忘れもしない十年ほど前、渋谷西武の古書市で買ったはずの『ヴェニスの石』上下が! 勿論その時の本はもう手許に残ってはいない。
今度のものは箱もなく、帰ってチェックしたらごく僅かに赤インクの傍線が引かれている。だからといって二冊で三桁の値付けは、有り得まいと思いつつ某ご有名古書肆のタグ付きのそれをありがたく頂いてきた。最近ちょくちょく、昔探していた本に、とんでもない値段で出逢うことが屡々あるのだが、自分の感性が古くなって、そんな本など誰も読まなくなったのかと思うこともある。嬉しくも哀しい感慨に浸りつつ、今日も帰り道、寄り道のM倫館で何冊か重宝したついでに、交差点に近いT堂に寄ってみたら、箱付きの同書が、例の店主の特徴のある値書きで、五桁のあの時と同じ値段で棚を睥睨していた。そうか、やっぱり、その値段だったのか。「ありがとう」と、M倫館に降臨する、小さな古本の天使にお礼の言葉を呟く素天堂であった。