交感度

次の『まぼろしたてもの 文学篇』、構想の段階でキーワードが出てこないまま、フリーズ状態に入ってしまった感があった。
ヴィラ・アドリアーナだとかタージ・マハールだとか実在の建築は思い浮かぶのだが、それをどう言うかで躓いていた。それが出なければ先に進めないから、結局、今回の発行はぎりぎりのタイミングで消えてしまった。そんな時に、あるツイッターで〈生者と死者の交感〉という言葉に出逢った。あんまり普通の言葉なので、意識の底に沈みすぎていたのだろう。

そういえば皇帝ハドリアヌスの、寵愛する美少年アンティノウスとの思い出を、我が別邸に籠める想いは、より高みをめざす宗教的な建築とは違ったかたちの建築への重要なアプローチなのだ。十八歳で入水した若者に持ち続けた、生涯を辺境の旅で過ごした老皇帝の、追慕の想いをかたちにする建築。
厳しく宗教的な畏敬のみが建築への動因ではない、失われた過去との交流、交感も〈建築に対する思い〉の重要な要素なのかもしれない。もう一度土台から組み直す必要がある。