奇想の風景 再訪


昨日とは打って変わって温かい日差しのなか、今度は桜も終わった新緑の上野のお山に登ってきました。
西洋美術館の『ユベール・ロベール 奇想の庭』、今日の目的はキュレーター、陳岡めぐみ(国立西洋美術館主任研究員)さんの、今回の展観に関する講演の聴講である。
余裕をみて、十二時過ぎには入ったのだが、もう受付番号は五十人を超えている。開場時間まで展観をと思ったのだが、ノンビリし過ぎて実際には開演ギリギリまで、会場にいることになってしまった。講演は、ユベール・ロベールの作品〈カプリッチョ─奇想の風景〉の根源と、成り立ちに関する詳細な解説だった。短い時間にギッシリ詰まった充実した講演でしたが、メモもロクにとらずに記憶が頼りで、大事な点も見落としているかも知れませんが、とりあえず、報告のようなものです。
長いローマ滞在で得た古代ローマの廃墟というテーマと、母国における「古代芸術再発見ブーム」にのって人気画家となる経緯。ピラネージとの親しい交流の中で、画題への影響と描写の独自性を確立する過程も明らかになってくる。王家の信頼を得て、 ルーブル宮の改装と、王室コレクションの管理を手がけるが、フランス革命で王党派として投獄される。しかし、芸は身を助けるの言葉どおり、復職してルーブルのコレクションの一般公開に力を尽くした。
ユベール・ロベールの油彩作品は大作が多く、所蔵美術館もルーブルやエルミタージュの大美術館が多いので、知名度の低い日本では回顧展は不可能だった。今回、この展覧会が催せたのもある同時代の個人の、コレクションに対する熱意と、所蔵する美術館の改装という、この日本で「ユベール・ロベール」の大展観がみられるのもその僥倖のお陰だという。
フランス、ロココの時代における国王の庭園デザイナーとしては、英国式庭園の影響を受けていたとか、洗濯女や魚釣りのテーマ等画題の多くに、時の移ろいや生命の変遷の象徴が描かれているという指摘は興味深かった。又晩年には、〈べ〉の庭園における修道院の廃墟などに、ピクチャレスク的な中世建築の影響もみられるという。とはいえ、ユベール・ロベールの作品は、存命時の上流階級の引き立てでも明らかなように、決して表向き難解ではない。そんな心やすさが、無名に近いこの画家に対する今回の展観の人気に繋がっていると言える。ユベール・ロベールとピラネージを同時に検証できた経験は、いま、自分のしている作業にとっては、大きな重要な要素を持っていた。このような素敵な展覧会を、日本でみることのできた〈大いなる僥倖〉に感謝せねばなるまい。