妄執の応酬 やっぱり、鷹は地中海に沈む

テンプル騎士団の古文書 〈上〉 (ハヤカワ文庫 NV ク 20-1) テンプル騎士団の古文書 〈下〉 (ハヤカワ文庫 NV ク 20-2)
何だか、息抜きばかりしているようだが、半年ぶりくらいに楽しみで本を読んだ。冒頭、聖堂騎士団のなりをした強盗団が、メトロポリタン美術館のオープニング・パーティーに乱入して大暴れするところは、いささか溜飲が下がった感がしたが、その後の展開にイヤな雰囲気を感じて暫く、先に行かれなかった。正直、アッコン陥落のエピソードとどう繋がるのか検討もつかなかったし。そのうちに女主人公である考古学者が動き始めて、昨日の晩、読み始めたら止まらなくなった。聖堂騎士団についてもそこそこ調べていて、それほど突っ込みどころもないのは『ダ・ヴィンチ・コード』もそうだった。ハードボイルドふうの展開がスピーディーなのも、まあトマス・ハリスブラック・サンデー』以来の今風のエンターテインメントのいいところだ。そんなわけで、読み始めたら止まらない魅力はあった。
騎士団強盗の首謀者の正体がなかなか明らかにならず、なったところで意外な方向に話が向かう。さあどうなるだろうというわけで、結局『テンプル騎士団の古文書上・下』は一晩かけて、一気に読み終わったのである。要所、要所に登場する聖堂騎士のエピソードは、地味ながらよく書けていたが、後半を覆う、気負って書かれたと思しい宗教観があいにくと、部外者の眼で見てしまうのだが、結局彼ら同士の妄執にすぎない矮小で陳腐な観念としかいいようがない。古文書の内容だが、もしあれが公表されたとして、首謀者たちが考えるほど重大な宗教的事件になっただろうか。そんなふうに考えるのは、東洋の島国の読者にすぎないからなのだろうか。
もちろん、伝奇小説のお約束として、一番の秘密である〈鷹〉は、海の藻屑になってしまうのだ。