陶酔の耽美は遠く 中川信夫『女吸血鬼』1959

ホラーより怪談が好きだったから、感想を言えば、面白かった。なのについ言いたくなる、だけどなあ、の一言。登場する要素の一つ一つはいいんだけど、例えば、天知茂のクールさとか、松村邸のお屋敷感がよかったとか。キリシタン時代の血が連綿と続く家系とか。変身の過程のリアルさだとか。

それなのに全体の流れというか、あの中川信夫でさえ押さえきれない破綻の数々。映画通の方のブログでは、ストーリーも突っ込みどころもすべて書かれているから、今さらプログラムピクチャー時代の構成の荒っぽさ、くどさとか、裸を出せば客は喜ぶ時代だったとか言い立てることもないのだが、とにかく、日本では本家ドラキュラ映画の耽美を求めてはいけなかったのかもしれない。

鬼か魔か処女の鮮血に濡れた牙!月光の街に恐怖の魔人出現!
それにしても、ポスターのキャッチの美しいこと、画像では分かりづらいのでテキストにしてみたが、どうですか、まるでシュールリアリズムの詩のようではないか。本編では求めても得られなかった、耽美がここにはある。

 血も凍る恐怖!処女の血を吸う地底の魔人!戦慄の怪奇異色作

クラッシックならベラ・ルゴシの 『魔人ドラキュラ』1931がある。極めつけのクリストファー・リー 『吸血鬼ドラキュラ』1958に対抗しようとした、心意気だけは買わなければならないだろう。耽美な映画が観たければ、ロジェ・ヴァディムの 『血とバラ』1960をみればいいのだ。

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