今回の口開けは、1人元町古本行脚。

今年に入ってから体調不良と原稿の遅れなどのいろいろで、外出もままならなかったのを見かねてK氏が、夏休みを遅らせた六日間の休暇を関西旅行にまるまる充ててくれた。今回は時間たっぷりの予定なので、神戸異人街のみでなく芦屋、舞子の洋館までゆっくり見て回り、最後の二日は京都を散歩することになっているそうだ。
「こだま」でのんびり東京を発ち、昼過ぎに新大阪到着。新大阪で乗り換えて在来線経由三宮駅について、今回の定宿「北の坂ホテル」へ向かう。途中K氏が一服する間に路地を覗くとキンモクセイの香りに包まれた小さな一宮神社を発見した。異人館街へも近く、小さいながらも落ち着いたホテル。そこに荷物を預け始まったのが今回のテーマ〈行脚〉行だった。
初日の予定は、素天堂が最近始めた囀りで見つけた、高橋由佳利さんのお店「トルコ料理ケナン」でK氏の妹さんたちと会食だったが、それまでの時間調整に、素は古本屋巡り、K氏は実家の片付けに行くことになった。きっちり用意された現地古本地図を頼りにK氏の先導で最初のお店「トンカ書店」。K氏は入らず実家に向かい、素天堂だけ二階のお店へ、雑然とした入り口には表紙の取れた古い聖書や雑多なチラシが並んでいる。均一の棚を見過ごして、中に入ると番台で店主とおぼしき女性が何かイヴェントの打ち合わせ中のようだ。店内は広くはないけれども、美術、写真、文学など結構充実した品揃え、美術の棚で図録『ロシアアヴァンギャルド舞台芸術』を見つける。他にも面白そうな本はあったが今回は持ち帰りのことを考えパスしたが、お店にいる間いっぱい、お客さんと番台での会話が途切れることのないざっくばらんなお店。

その足で元町駅を越え、海側のブロックへ出る。目当ては、二回来て二回とも体の震えた「ちんき堂」。旧ガロ系のコミックとマニアックな映画本が主だが、合間に思いがけない本が意外な値付けで埋もれているお店。エリアーデ著作集一冊と、絵本『ルーピーのだいひこう』あと、アートシアター92号真面目なホモ映画の先駆『真夜中のパーティー』。さすがに今回は震えるほどではないにしてもやっぱり手応えのある本屋さんだった。

前記の地図で前の路地にあるという二階のお店を覗くと本はまずまず。レコード、CDがメインだった。プログレ系があったので、タンジェリン・ドリーム『atem』を一枚買う。もう少し、勉強してきてみたい店だった。
元町通りアーケードに出て、最初に出会うのが「シラサ」、どうしてもギャラリーにしか見えない店頭につい行きすぎてしまうが、中はきっちりしたいい本屋さん。意外な本に再会したりしたが、ここも手堅く新刊割引本を二冊買っておしまい。次は新刊本屋さんが扱う古本ということで高をくくっていった「海文堂」、後日K氏から聞いた話では、神戸市内有数の突っ張った本屋さんらしい。店頭のDVD売り場で、先日見て感動したアンリ・ジョルジュ・クルーゾーの逸品『犯罪河岸』を購入。
もう一軒覗いてみたかった「神戸古書倶楽部」だったが、見つからず六丁目まで行って戻ってしまった。前回覗いたときの記憶をたどりながら一丁目へ向かって歩いているうちに辿り着いた、見覚えのあった店の入り口には格子が下がり、テナント募集の文字が貼り付けられていた。とにかく二時間以上よく歩いたと思ったが、それはまだ、明日以降の行脚の序章でしかしかなかったのである。
一旦K氏の実家に戻り、一休みかたがたお母さんと挨拶をして、今日の目標の「トルコ料理 ケナン」へ出かける。久しぶりにみんなと出会って、ラムや鶏の串焼きや赤エンドウ豆のサラダなどを中にして、おしゃべりを楽しく堪能した一夕であった。