今月の赤い鰯 ホームズかシャーロックか

ここのところ、新刊書店に縁がなくなって久しいのだけれど、昨日、久しぶりに渋谷の大きい本屋を三軒ハシゴした(と書いたところで大盛堂にいってなかったのを思いだした。少年期の自分にはあそこは、聖地だったのに)。世田谷からの東急バスの終点、渋谷駅南口の「紀伊國屋書店」、ついでに寄った「渋谷古書センター」から井の頭線渋谷駅地下の「啓文堂」と回ったが目的のものが見当たらない。自分の周囲ではとっくにみんな買ってしまっているのに、グズグズしていた報いかと肩を落として、半蔵門線の入口に向かう。ところがいつも使う出入り口は工事中で閉鎖されている。途方に暮れているときフッと気づいたのは、道の向こうの旧「旭屋」後の「ブック1st.」からの入口だった。そういえば、ハミルトンの「フェッセンデンの宇宙」河出文庫はここで買ったのだった。
もしやという事もあり、ついでに覗いてみたら、なんと目標の雑誌が平積みではないか。あの長細い顔と四角いが人なつこそうな顔が、買いなさいと自分を見つめている。偏屈な読書癖のせいで、あまり「マイ・ベスト××」に縁がなく最近遠ざかっていた今月号『HMM』の顔だ。締まりのなくなる口元を引き締めてレジをすませ、半蔵門線の改札をくぐると、早速ホームで本誌を開く。自分には雑誌は後ろから読む習性があり、この本も表4の温水さんの広告から見始め、編集後記、読者投稿、巻末コラムを前へ読み進んでいく。最近のミステリ事情には全く暗いので、愉しさもソコソコなのが哀しい。名アンソロジスト、オットー・ペンズラーの名前が懐かしい。千街さんや松坂さんのエッセイを読みながら、普段触ったこともない、現在進行形の連載群を斜めに読んでいく。
とってもそそられる、皆川さんの新作に足を止めながら、やっと地下鉄を降りる頃に今月の特集にいきつく。エッセイを幾つか歩きながら読んでいて、あれっと思う。なんでホームズの特集なのに、戯曲やドラマの話ばかりで、肝心のソーンダイク博士や、エラリーが出てこないんだ! そこで始めて表紙を見る。特集は「シャーロック」とそのライヴァルたち、であった。あの、最近やっと地上波で見た英国版の、『大統領の陰謀』みたいに地下駐車場に登場したマイクロフトを、モリアティーととっ違えてた←自分、あの素敵なTVドラマの特集だったのか。

ミステリマガジン 2013年 04月号 [雑誌]

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