パスティーシュの妙に酔う

特集「シャーロック」とそのライヴァルたち。全編読了。
北原尚彦「ジョン、全裸連盟へ行く」、読み進めるも、一切のクスグリもなく、聖典(この場合はBBCドラマ)準拠の体で粛々と語られる物語は、たまに聖典が顔を出すにしても、一切笑いを起こさせる要素は現れることなく、ちょっと妙な真相でストンと終わる。
ところが、感想を書こうと全体を咀嚼すると、猛烈な身体の底、喉の奥から笑いがこみ上げてきて堪えることができない。あの時の彼の行動、彼の反応、すべてがペイルフェイスといおうか、オフビートといおうか、イギリス風の怖いギャグとなって後から襲ってくる。北原さんならではの鬼品と言えよう。
高殿円「シャーリー・ホームズと緋色の憂鬱(前篇)」、私刊本「……とディオゲネス・クラブ」でお目にかかっていた(あちらではもっと近未来感が強かった)シャーリーとの再会。今回はジョーとシャーリーの出会いのみ、事件は次のお楽しみ。早く読みたい。
五代ゆう「シャーロット・ホームズと楡屋敷」ヴィクトリア朝を舞台に、シャーロットとジェーンのコンビが、謎の失踪事件を追う本格派、硬派短篇。世界観に揺るぎがなく、二人と彼女たちを囲む光景が美しい。こちらも是非短編集として、シュロック・ホームズの向こうを張って欲しいものだ。
もし、「百合ホームズ・アンソロジー」ができるのなら、番外編として、戸口に立つ男装ホームズに、モノクル姿のハプスブルグの貴公子レオポルド(仮名、もちろん姓はアドラーだ)が、通りすがりに「おやすみなさい、ホームズ嬢」と言わせてみたい。ああ、読みたい「ボヘミアの愛人」。書き出しは「あのシャーロットには「あの方」と呼ぶ唯一の男性がいた。」