桜・アエリータ・ピアノ

いつものように重い素天堂の尻をK氏に持ち上げてもらって、二度目のUPLINK、ロシアン・カルト特集上映へ。
整理券を受け取って、時間つぶしに代々木公園で花見。曇り気味ながら暖かいお彼岸の日で、桜の木の下は死体ならぬ酔漢で埋まっている。急な開花で高をくくっていたが、思わぬ盛況でベンチが空いていない。最初は樹の根元で坐り始めたが、買ってきた食事に箸がついていないのに気がつき、入口の屋台に箸の補充にいく。おまけはたこ焼きである。
戻ったらベンチが空いたので、大急ぎで場所取り。ニセ・ビールを開け、周りの人間模様を桜越しに観察する。道頓堀でも見かけない(だろうと思う)、眼を瞠るような衣装センスのおばちゃんと、カジュアルな服を持ってないおじさんのコンビに驚き、シート持参、吟醸酒に升、柿の葉寿司と、過剰に日本情緒な外人男の二人連れとか。
目的のピアノ伴奏つき上映の、アエリータは、別の機会に伴奏なしの上映に誘われたが上映中すっかり寝てしまい、思いっきり怒られた苦い経験があった。今度こその意気込みであったが、実際には一回アブナイ瞬間があったがなんとか乗り切って、今回は日本語字幕もあり、映像も鮮明だったので内容はしっかり掴むことができた。
いわゆるSF映画の元祖だと言われているが、ロシア革命後に起きた混乱からの過渡期の描写が生々しく描かれており、実際のストーリー展開も舞台は現実のモスクワなのである。
火星の王国という設定のSFシーンは、実はある科学技師の精神的葛藤からの逃避に起こる妄想場面だったというのだが、妙にコミカルなストーリー展開と妄想シーンへの拘りが絡みあって、ふしぎにリアルな感じに出来上がっていた。
見所はもちろん技師の妄想シーンであって、構成主義の最後の光芒として、手も金もかかった装置と衣装はすばらしい。火星の支配階級の衣装はロシア旧体制風だが、火星の王女の、何本も差したかんざし風の頭飾りや長い裾で表現された衣装は、なんと、日本の花魁そのままのイメージなのである。さらにその侍女も円い飾りが、花街の半玉(花魁の見習い)の髪型なのだ。

戯画化された火星の支配者たちは、結局技師の潜在意識の中にさえ、根ざしている革命思想によって転覆されるという思わぬ展開の中で滅び、ショックで目覚めた技師は、妄想のもとだった、火星ロケットの設計図を火の中に投ずって話は終わるのである。
柳下美和さんのピアノ伴奏は、これが二回目なのだが、相変わらずダイナミックなストーリーに負けない見事な演奏を堪能させて頂きました。