謎の『西洋美術史』再説

弥生美術館から一週間もたってしまった。その間何もないどころか、いろいろありすぎて何を書いていいか分からなかったといっていい。連休半ばには町田市立国際版画美術館「空想の建築 −ピラネージから野又穫へ−展」へ出かけ、美術館脇のドイツ・オーストリア生活文化館でお茶したり、内藤三津子さんの『薔薇十字社とその軌跡 (出版人に聞く) 』を買って一時間で読み切ってしまったり、その中で大きな傷を見つけてちょっと怒ったりしていた。「空想の建築展」に関しては、日記で挙げられないくらい重い何かを突きつけられ、感想も書けない状態だった。
そんななか、毎日見直していたブログのリンクページで、「誰も持っていないかもしれない本の書評」、に張られたリンクに気づいた。表題の通り原著者名も削られ原題さえもわからない存在だった。何しろ、『西洋美術史』と銘打ちながら、内容は古代英国圏に存在した、非古典的な装飾芸術に関する論考だったのである。そんな本を調べる人がいると思ってリンク先を開いてみたらビックリ、原著者名を復元されてなんと学術論文リストCiNiiに挙げられていた。しかも十年前には不明だった日付の問題も、初版発行が判明して氷解した。『西洋美術史』 ブラウン著 ; 石井直三郎譯 (美術叢書, 第2輯)向陵社, 1916.4
素天堂の所蔵本は版元を変更して再版されていたものだった。ここまで来れば原著までは後一歩。カナで著者名を検索したら、一瞬で解明した。Wikipediaに項目が立てられている「G. Baldwin Brown」の伝記的既述を確認したところ、著作目録に気になる書名を発見することができた。

  • The arts & crafts of our Teutonic forefathers being the substance of the Rhind lectures for 1909
  • by G. Baldwin Brown. --. Published 1911 by A.C. McClurg in Chicago .

 
下記のネット・アーカイブで観てみると、間違いなくこれが『西洋美術史』原本で、大正初期に出された翻訳は別刷図版や挿入図版まで、全て忠実に再現していたのだった。邦題では消されていたが、当時には稀な「チュートン的祖先文化」への言及であり、これもやっぱり西欧文化におけるミッシング・リンクの一冊だった。
しかも原著は現役で版を重ね続けており、さらにネット上ではテキストが公開されているのだ。百年前のケルト・ゲルマン文化研究に興味を持たれたら、どうかご参照願いたい。