勉強嫌いは今でも

薔薇十字社とその軌跡 (出版人に聞く)

薔薇十字社とその軌跡 (出版人に聞く)

物心ついて以来、好きな本だけ読んで、好きなものだけ見てきた。最低限の生活に伴う社会行動は別にして、映画にしても美術にしても好きなものを楽しみだけで見てきたのだから、そこに批判的分析が伴うはずもない。しないで済めば触りもしない勉強嫌いだった。その最高潮が、薔薇十字社本との親密な関係を含む、高校卒業後からの十年だった。
先日の「地下の古書市」での「薔薇十字社外伝」を聞いて思い出すのは、『吸血鬼幻想』、『悦楽園園丁辞典』などなど、それぞれの本の個性が持つ手触りと匂いだった。頂いたパンフレットに居並ぶ書名はその当時のことをありありと蘇らせてくれる。そんなわけだから質問事項はと問われても、そのすべてを肯定的に受け入れる姿勢から、疑問点も生じるはずもなく、話し出せばただの昔自慢になってしまう。そう思って手も挙げられない始末だったし、この日記も立ち上げて以来その繰り返しだった。

澁澤さんの著作と出会い過ごしたのは、種村さんや、松山さんが四十歳前後、、巖谷さんに至ってはまだ三十を越えたばかりだったかも知れない、それぞれ自分の蓄積してきた学殖を、思い切り吐きだしてくれた美学校での至福の日々だった。
六十年代末からの、夥しい小出版社による雑誌や異色文学の奔流を享受し続けることができたのも、内藤三津子さんや桑原茂夫さん、渡辺一孝さんら沢山の出版人の先鋭的な感覚と、苛酷な金銭的苦労のない混じった熱意による出版事業あってのことだったのだ。その経緯については、お手数でも上記のリンクをご覧になって頂けたらと思う。素天堂の往く立てはここに描かれたとおりだから、ことさら屋上屋を重ねるでもない。
お世話になった方々も多い、沢山の本屋さんとのおつきあいに支えられた、わがままな読書生活はまだまだこれからも続くだろう。芸のない感想にもならない感想である。