中世世界に浸る「貴婦人と一角獣」展

シュルレアリスム展」以来、二度目の「国立新美術館」へ。今回は打って変わって、フランスはパリ中世美術館の至宝タペストリ貴婦人と一角獣」に逢いに来た。
会場入室してすぐにその驚異は観客に覆い被さってくる。大きな楕円形の壁全面に広げられた全長総計二十メートルを超える六枚の織物は、まるで最前列でシネマスコープの大画面を見るような迫力である。
展示物の褪色を防ぐためにギリギリまで落とされた照明の中で見えてくるのは、十五世紀末、フランス北部でデザインされ、ベルギー(フランドル)で織られた天地三メートルを超す大きな綴れ織りである。ドッシリと重みを感じさせる質感が、生々しく感じられる生地には、清楚な女性と空想の生物〈一角獣〉を中心に、当時の庭園の植物や小動物が赤い地色に織り上げられている。豪奢と敬虔がない交ぜになった、貴族社会における文字通り「中世の秋」が、今目の前にある。
専門家にとってさえ、図像学的にも謎の多い絵柄について素天堂が何かを語れるはずもないが、清楚な貴婦人と一角獣の絵柄は素天堂を幻の中世に誘ってくれた。一番のお気に入りは「聴覚」を現すという、卓上オルガンをあしらったものだった。別室で同時に展示された「聖バルバラ」の彫像が、自分で取り上げたこともあって共感もできたし可愛らしかった。
中世、中世といいながら、実はこの国には西欧中世の実際の痕跡はほとんどない。何かを言い、何かを語ろうとすれば既存の情報からの孫引きをせざるを得ない。見た人の話を聞き、観察した人の書いたものを読む。極東の島国にいればそれは当然だ。だから、今度のように、フランス中世末期の現物を見ることができるのは、僥倖でさえある。三回も四回もゆったりとした展示を巡りながら、体中に西洋中世の空気を溢れさせて会場を離れることができた。