祝 再版 !

探偵ダゴベルトの功績と冒険 (創元推理文庫)

探偵ダゴベルトの功績と冒険 (創元推理文庫)

積ん読バレバレなのだが、先日光文社文庫版『クイーンの定員』で、グローラーのどんな話が載っているかと点検したら、見事省略されていて仰け反った。一帯どんな話が選ばれていたのか気になるところだ。省略されたクイーンの評価も読んでみたい気がする。
一部ではあの長閑さが厳しい読者(マニア)の不評を買っているようだが、いかにも帝政末期(これを世紀末と呼んでいいと思うが)の、爛熟したウィーンの匂いを感じさせてくれる会話と犯罪の諸相は、英米の黄金期とは違った、「Good Old Detective Story」の醍醐味を味あわせてくれる貴重な存在ではないかと思う。
さらにダゴベルトの解決手法が、いわゆるもみ消しに近いという意見もあったけれど、なに、上流階級にとっては、そのための私立探偵なのであって、かの高名な「史上初の諮問探偵」でも、最初の短篇は題名の通り、某中欧王家のスキャンダルのもみ消しだったではないか。
もう一つ見本を挙げれば、米国近代探偵の走りであった貴族風なディレッタント探偵などは、犯人を司法に委ねるどころか、ほとんどの解決を、自らの手で闇へ葬ることで終わらせている。あの数学者が登場する大名作では、からかい半分に検事に自らの逮捕を仄めかしさえいるではないか。
それに比べれば、訳者もチェスタトンを引き合いに出す「特別な事件」のエピソードなどは、それこそ「たった一つのさえたやりかた」の解決法でさえある。
幸いにしてまだ、ダゴベルト氏にお目もじ叶わなかった諸兄は、再版された彼の業績を求めて、即刻書店へと向かうに越したことはなかろうと愚考する。
なにしろ、ヴァン・ダイン、クイーン、乱歩の慧眼に叶った彼の業績、つまらないはずはないと存ずる。