奥歯に絨毯が

探偵小説には、正負二通りの楽しみが存在すると思っている。一つは当然のことながら、正義の探偵の謎解きを堪能することであり、もう一つの楽しみは、異常な事件に対する猟奇的な関心を満足させることである。
前者に比重を置けば、本作「ダゴベルト」シリーズに不満を抱くのもある程度は当然かと思う。で、素天堂として敢えて探偵小説史上の大名作二点を取り上げ、後者について語った。ところが、いったいそれらの作品が何を現しているのか、仄めかしが過ぎて、ちっともわからないと言う声があった。歯に衣どころか、絨毯が挟まったようだというのである。
どちらも、否定のしようもない探偵小説史上の名品を、わざとへそ曲がり的に採り上げたので、当然その作品を貶めているつもりはない。興味を持たれたら是非手にとって頂きたい傑作なのである。だから、それぞれに登場する敬愛する探偵の名前だけでも、あげておこうとおもう。
最初の諮問探偵は「シャーロック・ホームズ」、後の近代探偵は「ファイロ・ヴァンス」その人である。