久しぶりに上野を散策 国立西洋美術館

大古典『カビリア』に入れ込んでから二ヶ月、ネットゲーム「Garden of Time」の庭師業が忙しく、すっかり日記からご無沙汰になってしまった。勿論、庭師業以外にもその間、チャプリンのチンピラ役時代の作品『チャップリンの冒険』を、柳下美和さんの名調子で鑑賞したり、丸の内の三菱一号館で「唯美主義」の、若干胸焼けは誘うものの、なかなかのうま酒に酔ったり、はしてはいたのだが、とにかく空いた時間は、庭造りに励みすぎて日記にご無沙汰状態だった。

そんな、自堕落を振り切るように、葉桜見物を兼ねて、上野の山を散策してきた。
お目当ては八日が初日だった「ジャック・カロ―リアリズムと奇想の劇場バロックの祝祭の裏側を見せてくれる優れものの展観だった。
ルネサンスの謝肉祭 ジャック・カロ』小沢書店 成瀬 駒男の名著でおなじみだが、一堂に会する事のない作品群を、圧倒的な存在感で十七世紀のイタリア、フランスの繁栄の裏を垣間見せてくれる、いい展観だった。これがすべて自館の収蔵品、しかも約半分に過ぎない事が驚きだった。一番お楽しみだった「聖アントワーヌの誘惑」を初め、鋭いビュランの線描で表現された、細部に悪魔の潜んだ作品群を詳細に張り付くように見られたのは貴重な経験であった。この展観では 何と、拡大鏡まで用意されているのである。
続いて併催の「非日常からの呼び声 平野啓一郎が選ぶ西洋美術の名品」。これが拾い物で館蔵品のアンソロジイとしても大変迫力のあるラインナップであり、多少、外連味はあるものの見応え充分な品揃えだった。普段、近代の印象派周辺の作品に埋もれてあまり表に出てこない、個性的な作品を見る事ができるありがたい企画だった。とくにルドンの師匠筋であったルドルフ・ブレダン「善きサマリア人」は、その詳細な書き込みと、暗い森の情景故に複製では見る事のできない彼の綺想を目の当たりに出来るありがたい企画でもあった。
昨年度の名企画「ル・コルビュジエと20世紀美術」に、開催中は買う事の出来なかった図録が出来ていたのには驚いた。いかにも急造らしい、装幀がおしまれるが、資料性の高い展観なのに、図録のないのが惜しまれた企画だったから、遅ればせとは云えありがたいことである。
三冊のお宝図録を抱きかかえ、上野公園下から、偶然遭遇した窓の大きい夢の下町観光バスに揺られて錦糸町まで、ご機嫌の帰路となった。