「カビリア」の昼を過ごす

このところ、サイレントづいている素天堂だが、とうとう念願のイタリア映画の古典中の古典、「カビリア』をやっと見ることができた。しかもイタリア文化会館東京館での「ガブリエーレ・ダンヌンツィオ 詩と冒険と」という企画の一環で、太っ腹なことに無料で良いとのありがたい催しだった。
 驚異のローマ軍攻城術
開巻劈頭、ナポリ近郊、豪農の邸宅での華やかなシーンは、ヴェスヴィオの大噴火という災厄に襲われて邸宅の破壊、一家の離散に見舞われてしまう。豪農の最愛の娘は乳母に命は救われたものの、幼くして両親と引き離されて、対岸の北アフリカ当時の敵国、カルタゴへと流されてしまう。そこから、奴隷に売られ損なったり、邪神モロックの生け贄になりかけたりするのだが、ローマの士官とその忠実な奴隷だったマチステ(このキャラクターがすごい)の力によって、紆余曲折がありながらも、最後には助けられて、ローマに帰るという話である。ストーリーそのほかの詳細は、柳下さんご紹介のこのページで。
 これがマチス
根幹のストーリーは、以上の通りだが、ポエニ戦争と言う歴史上の事件と絡み、それが結構しっかりと、主人公の運命を翻弄し続けるこの物語の根幹となっている。そこで重要な役割を果たすのがカルタゴ側の王女である。
彼女はある偶然からマチステの手からカビリアを引き取り、成長してからも側女として、大事に育てているのだが、戦争に負けカルタゴはローマ軍の手に降る。軍を率いていたヌビア人(ここら辺に第一次大戦後のイタリアとエチオピアの関係がチラリと見える)の将軍が凱旋の際、投降してくる王女に恋し、カルタゴの王となってしまう。
当然ローマの本部は怒り、敵方となる王女を戦利品として提出を求める.しかし、自らの妻をローマに渡すのを潔しとしないヌビアの王は、結婚の際受け取った腕輪を王女に返し、ローマ人将校の手にかかって死ぬ。腕輪を受け取った王女は、我が夫の真意を悟り、ローマの軍門に降ることを拒み、自ら毒をあおって死ぬ(この舞踊劇とも云える断末魔は見事)。そう、このサイドストーリーは、フローベール歴史小説サランボー」のイタリア版だったのである。当然、物語に自分の名前をクレジットするのを、ダヌンツィオが拒んだのは当然だったと思う。字幕の語調に手を入れるだけ、主人公の名前と活躍する奴隷の名前だけを付けただけだと言われるのも故無しとしないだろう。
しかし、監督原案のパストローニの才能は、その骨組みに、美しい映像美と、ローマ時代の歴史公証、カリビアの運命を絡み合わせながら、三時間に及ぶ大作を造り上げたのである。
大ヒット作だけあって、画像も豊富に残っており、なんとか、独自の写真を選ぶことができたのは嬉しい。巨魁マチステという稀代の才能についてはもっともっと語りたいが、それは後日と言うことで。最後に、主人公でさえ霞んでしまう王女の艶姿を。

そういえば、大分前、当時の映画界を描いたピランデッロの小説を紹介したことがあったっけ。