夏コミ86黒死館附属幻稚園 新刊告知 「戦前『科学画報』小説傑作選」1A5 164P 1000円

またもや長い間のご無沙汰でした。

その間、名アンソロジスト東さんの先導で近隣の怪奇スポットを練り歩いたり、遠く岐阜の博物館へ心霊見物に出掛けたり、家にくすんでばかりいた訳ではないのですが、Twitterという便利な道具でガス抜きをしてしまっているのが現状です。まあ、日常的な庭師作業も大きな原因かも知れません。
そんな中、逍遙本編ネタ切れを埋めるべく、K氏が立ち上げてくれた『ダクダク』も三号を数え「矢毒」「探偵小説の科学」「錬金術」と重い内容ばかりだったので、今回の新刊企画として、小説アンソロジーを提案してみました。素天堂の思惑としては、手許のバックナンバー何冊かを広げて、眼についた二、三作をチャチャッと打ち込み、一丁上がりだと思っていました。当然ですが、K氏の嚢中に《手抜き》などという安易な言葉は入っておりませんでした。
まず架蔵の「科学画報」全冊を取り出し、目次の切られたものも多い総ての内容を検証することから始まり、大正末期から昭和十二年くらいまでの間に掲載された総ての作品をリストアップすることから作業は開始されました。そのなかから、内容の検討、著者の検索、著作権者の確認まで、先輩の某書肆の御主人の教えを請いつつ、何とかリストアップまで漕ぎつけました。削りに削ったつもりだったのですが、中編、短編併せて十四篇のヴォリュームになってしまいました。うち三篇は翻訳物も含まれています。

  • ヴィンセント・コルニエ 「落下する埃」 吉岡龍訳
  • 石井重美「地下の人種」
  • 小関茂「物質と生命」
  • 阿部彦太郎「バチルスは語る」
  • 中河与一「数式の這入った恋愛詩」
  • 佐野昌一「科学者と夜店商人」
  • 青木紋六「モルヒネを嚥んだ女」
  • 志摩達夫「死相のテイポロギー」
  • 嵯峨敏郎「魔臭城」
  • 浅井順「新巌窟島物語」
  • 林田弁吾「顕微鏡眼博士」
  • クレマン・ヴォーテル 「最後の歩行者」 山下初雄訳
  • ウ・エム・ローマン&ラオウル・ビゴオ「硝子の檻」 山下初雄訳
  • 服部亮英「ホシの工場見学」

 
刺激的なタイトルが並びましたが、これらの中でも目玉になりそうかと思うのはまず、明治大正にかけて自然科学啓蒙書を数多く手がけた、科学ライターの先駆、石井重美による文明批評小説、当時人類学の最先端であった優生学や人体改造術などが表立って取り上げられた大作「地下の人種」。当時気鋭の文士で新感覚派の先頭を切っていた、中河與一の一寸変わった建築テーマの恋愛譚「数式の這入った恋愛詩」が挙げられます。
また昭和五年、科学小説懸賞に三等入選した、小関茂「物質と生命」は、若き歌人の思い描く、思想的未来像をリズミカルな文体で書き出されたSF散文詩ともいえる作品でした。取り上げていけば切りがない個性派揃いの顔ぶれになったと自負しています。中には、これ以外では絶対取り上げられることはないだろう怪作も含まれています。勿論後年のアンソロジーや全集など、収録済みの作品は今回取り上げていませんが、唯一、佐野昌一(海野十三)のユーモアスケッチ「科学者と夜店商人」は、そのイラストをご覧に入れたくて、青空文庫収録作品ですが、取り上げました。

いつも通り、オリジナルイラスト満載の編集になっております。新企画のシリーズを「噴飯文庫」と名付けましたが、巻末には、文字通り、噴飯物のK氏と素天堂の対談までつけました。
コミックマーケット86 16日(土) 東 へ56b にてお待ちいたしております。