一考さんのトークショウ at「On Books.」ギャラリーカフェ sakura 26.oct.

 告知だけしておいて、報告もないのもなんなので。不完全レポートを掲載します。
 書物の要件はまず、読むというテキスト性である。読めればよいという条件を立ち上げた上で、さらに、活字(印字された文字として)、本文用紙、表紙、さらに装飾、保護材としてのカヴァー、箱、帯とが本の属性に含まれる。テキストの重要性は当然として装訂という作業にはそれら全体を含んだオブジェとしての評価が下される。
まず、活字を主とする印面レイアウト。さらに本文用紙、日本ではあまり重要視されていないが、欧州では高級な書物ほど和紙を使用するなど、本来は重要な要素である。さらに製本技術の移り変わり等々。
 しばらくは、高踏的装訂芸術論(でも実際は面白かった)が続くが、コーディネーターの方の一言でスィッチが切り替わって、以降は一孝さんの(今回の)タイトルでもあった詩歌に対する貢献や、編集歴とそれにまつわる裏話が生々しく語られる。そこでは、かかわってこられた各社、各人実名でオフレコ不規則発言続出、残念ながらもっとも面白かったこの部分はほとんど筆記不可能なのだが、編集者としての重要な要素がそこでは鏤められており、結構プロの方がお見えだったのだが、苦笑しつつもその内容に結構納得して居られたようだった。一考さんの業績をご存じの方も多く、話しやすい雰囲気の中で終始笑いに包まれながらのトークであった。
 メイン・イヴェントである装幀展の当主である間村俊一さんも一考さんの装訂に深く心酔していらっしゃって、その感じが温かく伝わって心地よいものがありました。
 勿論笑い話ばかりではないのは当然で、唯一、素人として印象に残ったのは、中井英夫晩年のエピソードとして語られた、芸術家としての作家が如何に気まぐれで気むずかし屋であるかとの一例であった。
 3ヶ月ほど一考さんが中井さんの世話を住み込みでなさった時のことだが、ある日、中井さんがヒラメの昆布締めが食べたいとおっしゃるので駅前まで買い出しに行き、料理人でもある一考さんがその目利きで好いヒラメを買えたので、昆布締めだけではもったいないと、片身を刺身にして出したところ(勿論昆布締めも用意してあるのに)「おれが食いたいのはこぶ締めだ、なんで刺身なんか出す」とちゃぶ台をひっくり返す星一徹的行動に出た。もっとも、一考さんの話ではみそ汁の味ひとつでちゃぶ台をひっくり返すこともあったらしい。写真で見るあの端整な顔立ちと作品からはチョット伺えないシビアなエピソードであった。
 以後お付き合いの長いゴールデン街の美女2名を含めた会場内での歓談暫時の後、主要メンバーは次のステージへ向かわれたようである。
なお、一考さんの間村氏装訂展に関しての発言はこちらです。
装訂に関して素天堂がはしょった部分についても書かれております。

http://www23.bird.to/~ushigome/bbs/despera0036.html#despera20031030194111