悪魔学大全そのほか  今日はなんたる良き日ぞや

学研M文庫から悪魔学大全Ⅱ「降霊魔術」ASIN405904007X
光文社から都筑道夫コレクション《初期作品集》「女を逃がすな」ASIN4334736076
同じく光文社文庫江戸川乱歩全集第12巻「悪魔の紋章」文庫とはいえ、3冊も新刊を手にするのは久し振り。

「降霊魔術」は悪魔学大全の本編とも申すべき作品。
大量な画像と、豊富なエピソードで、「オカルティズム」を日本に降臨させた、文字通りの「降霊魔術」本である。400ページに満たない(もちろんこれでも十分厚いのだが)文庫本の中に(膨大なオカルティズムの事象と歴史を取り込み、なおかつ平明に紹介した驚異の書。この面白さの前では、どこに孫引きがあろうと、どこに引用間違いがあろうと、存在自体が奇跡だと思う。
この本の価値(当然+プラスもあれば−マイナスもある)は、すでに本書中に渋澤龍彦による桃源社版復刊時の戦後における位置づけ、渡辺一考氏による当時の出版状況を俯瞰した本書の意味と限界についての詳細な言及などで、ほとんど言い尽くされている。テキストとしては申し分ないものだと思うが、(本当に)無い物ねだりとして一言いっておきたいのは、当時の造本の粋とも云える親本の書影、二色刷本文の画像を原本を知らない人に、カラー口絵等で、この書中で見せてあげたかったと思うのだ(親本の書影はこちら http://www3.tky.3web.ne.jp/~taqueshi/sakai.html)裏表紙ですが。
 もう一冊。都筑道夫《初期作品集》すでにほとんどの都筑道夫本を処分してしまった素天堂としてはこのコレクションぐらいうれしい企画はなかった。中学生時代に出逢った美しい原色黄のコート紙で装幀された「やぶにらみの時計」は自分の読書傾向を決定してしまった作品だったから。
シリーズの他の作品集と違って、今回はそれが表題ではなかったので、まさか読めるとは思っていなかったし、店頭で見かけた瞬間レジに持っていった。このシリーズは三一書房版の異色作品集と並ぶコレクションの傑作だと思う。今その採録されたあとがきを読んでいて、ハタと気がついたのはビュトールなんかの新しいフランス文学に興味を持ったのは都筑さんのせいだったんだと気が付いた。
 ところで、採録された「飢えた遺産」の著者自己紹介だが、残念ながらちょっとした誤植を見つけてしまった。最後の行の“新米派”“新英派”という見慣れない言葉。勘違いかもと思って、たまたまあまりに汚くて古書店に処分できなかった、東都書房版のカヴァー裏を確認したら、やっぱり、“親米派”“親英派”でした。