追悼都筑センセー 

 あの頃、1冊1冊、1年おきくらいに刊行される新刊を、御馳走を食べるように賞味していた日々を思い出します。「やぶにらみの時計」から「なめくじ長屋シリーズ」「退職刑事」まで、すべての作品が自分にとっては最高の作家でした。手元にほとんどの作品が揃っていた(結構必死で集めたのですが)ので、新しい読者には初期作品が手に入りにくくなっていることなど気が付きもしませんでした。角川でほとんど全作品が文庫化されたり、それ以外でも新作が常時出ていたので安心しきっていたのですが、やっぱり初期、中期の脂ののった作品群は手に入りにくくなっていたのですね。中途半端な文学性や、社会性は潔く切り捨ててあくまでもゲームとしての小説を書き続けていらっしゃいました。かといって、脳天気なゲーム小説ではもちろんないのは初期の「なめくじ長屋」でのエピソードを見れば一目瞭然だと思います。その姿勢が、いかにも砂絵のセンセーに作者としての都筑さんが投影されているような気がします。
 また、デザインにも造詣が深く、初期の真鍋博山藤章二から、まだ学生だったはずの橋本治(デビューはイラストレーターだった)の起用によるおしゃれな挿絵、垢抜けた装幀は都筑作品を読む大きな楽しみの一つでした。とくに、探偵小説デビューの「やぶにらみの時計」の真鍋博、中期の作品集「都筑道夫 異色作品シリーズ」における山藤章二の装訂はその当時の探偵小説本の中では群を抜いてカッコイイものでした。
 また、週刊連載だった高信太郎のイラストが愉しかった軽妙なエッセイ「先週のツヅキです」で、その作品趣向のセンスの根元を知らされたものです。もし全集なるものが企画されるなら、当時の「文化史的資料」としても貴重なエッセイ群を是非加えて頂きたいものです。
 作品論、作家論は素天堂の手に余りますが、以下のはてなサイトで「都筑作品」に関する適切な感想を読むことができます。どうかそちらをご覧下さい
http://d.hatena.ne.jp/yukodokidoki/20031214
http://d.hatena.ne.jp/boxman/20031212