聖夜劇

聖夜劇 天使の子らの髪赭し髪黒し やがて神うとみだす  塚本邦雄

クリスマスの特集に死児の齢を量る所業を。
 白玉書房版「塚本邦雄歌集」 
 目もつぶれよとばかりの鮮やかなグリーンの、それ以降の豪華な装幀を想像もできない禁欲的でシンプルな造本。しかしながら持ち重りのするその質量は、紙の重さだけではなかったのだろう。まるで、極上の物語を一行にこめたようなその短歌、「水葬物語」からのすべてを1冊にまとめた重みは、少年の繭から脱皮したばかりの年代だった素天堂には手にあまるものだった。「悦楽園園丁辞典」で、飛び抜けて気の利いた掌編小説の書き手としか思っていなかった塚本が、実は短歌という未知の世界の“魔王”だったのだ。
 当時、既にすべての既刊歌集が稀覯本となっていたから、その全貌を知るためにその「歌集」は必須のアイテムだったのである。そのころの抜き書きが手元にあるのだが、その選歌の列は今見ると“恥ずかしい”の一言につきる。
 当時掘り起こしていた短歌雑誌のバックナンバーに掲載された彼の評論の、構成の妙にはまり始めていた時に刊行された処女評論集「夕暮の諧調」人文書院刊を探して、東京中を走り回ったのもなつかしい思い出である。
 発表順に一文字づつ表題が増えるという力業を見せてくれた作品集「紺青のわかれ」中央公論社刊の第一作短編「蘭」が、「ミステリ・マガジン」というエンターテインメント・マガジンに発表されたのには、塚本の自負を感じて内心快哉をあげたものだ。収録最後の作品は「海」に掲載された十文字の「朝顔に我は飯喰ふ男哉」。