マジック・サークル 上ISBN4054020070 下ISBN4054020089

               すれっからしオカルトおたくの感想として。
 奇妙な生い立ちの聡明な現代女性が依代(よりしろ)となって、世界歴史として綯われてきた縄の、捩れつつ見え隠れしてきたもう一つの超古代からの裏文明の流れを体現、遍歴の末、成就する。義理の兄の力を借りつつ、古代知の全能者としてのネイティブ・アメリカンに生まれ変わる瞬間。

「自分たちを混ぜあわせ、今まで二人いたところで、つかのまひとりになるんだよ。しかしもちろん天使には実体がない。月の光と星屑からできあがってるからね」

 ここに至る長い長い秘儀参入の儀式としての過去への遍歴は、突然降りかかった奇妙な遺産相続に始まる、彼女自身の風変わりな親族訪問の積み重ねによって行われるのだが、それら奇妙なエピソードの下敷きになっているのはシェンキェヴィッチの「クオ・ヴァディス」、一連の最近はやりの「レンヌ・ル・シャトー伝説」、ナチスドイツの「トゥーレ史観」、「世界の王」や「神秘学大全」に代表されるルネ・ゲノンやルイ・ポーウェル等の祕教的歴史観、さらにジンギス汗に始まる「元朝秘史」までが鏤められている、眩暈する裏歴史としてのエゾテリスム(秘教)の満艦飾。
 語源学、言葉、ことばの洪水によって、たった2冊で、人類存在の祕密を語り尽くそうとする壮大な試みだが、とにかくストーリーが平板で、緻密に語られる古代のエピソード(そのほとんどは神学論争だったりする)は、興味深くはあるが、そのストーリーの流れを阻害してしまっているとしか思えないのだが。とはいえ、原始基督教からカトリックに変質させるパウロのエピソードに代表される権力による表の歴史の書き換えに対する作者の姿勢には共感できる。

(古代の)祕密は有機的な性質のものなので、明るみに出ると、今日の「組織化された」宗教、すなわち何世紀にもわたって明確なものになり、その硬直した教義や祭儀にとらわれている宗教の権威を減じるという。

そう、この作品に波瀾万丈の遊戯小説「8エイト」のストーリーテリングを望むのは、無い物ねだりであったのだ。さらに、今まであげた書名にしても現在では入手困難なものもあって、そういう歴史に興味を持っている新しい読者にはお買い得かもしれない。