ロバート・ブラウン物語

 清原なつの「花岡ちゃんの夏休み」りぼんマスコットコミックス RMC140 http://www.fukkan.com/vote.php3?no=14624
たまには、非現実の本について語ろうか。
心の中から探していたある本を、偶然見つけたときに同時に手を差し伸べた人がいた。本を読むという空虚な楽しみに取り憑かれた人々にとってはそれは、至福の瞬間なのだ。そんな瞬間に近い喜びをあたえてくれた人がいた。
その人から預かった宝物がこの本。銜え煙草で“びえー”となく数子ちゃん(花岡ちゃんにファーストネームがあったんだ!)の不思議な感受性は、少女マンガ初心者だった素天堂に、深入りの後押しをしてくれた大事な作品だった。“ぴー”と泣く美登里ちゃんとの可愛いコンビも素天堂は大好きだった。最初は主役の立場が反対だったのに、存在感の強烈さ故、結局、デビュー作品集のタイトルにさえなった「花岡ちゃん」だが、そこに登場する当時でたばかりのウィスキーのブランド名を冠したその本は、内容こそ分からないけれど、どんな素敵な本なのかと思わせる。その本を見つけた瞬間に出逢った、奇妙な青年の不思議な感性もやはり懐かしい。夏休みの日々、木陰で交わす奇妙だが、今思えば可愛い会話に、おもわず入り込んでしまうのだ。

まだまだ/あんたは修行が足らんよ/ものごとはまげて見/ナナメから見て/ほんとのことがわるんだよ 同書18p

数々の清原なつの作品の再刊が、大森望さんらの努力で実現しているなか、珠玉の初期作品群が手は入らないのは悲しい。理由は薄々分からないではないけれど、何とか再刊して欲しいものだ。そうすれば預かったこの本をその人に返すことができるかもしれない。