日本の名随筆 別巻7「奇術」作品社 isbn:4878938277

「世紀末奇芸談」以来、奇術にはまっている、素天堂究極の一品。作品社の看板シリーズ「日本の名随筆」単漢字による本編100巻に続く別巻の一冊で、本編も「嘘」「夢」「香」など好編集の多い精髄揃いのアンソロジー群だが、この「奇術」も、編者にアマチュア・マジシャンの雄、泡坂妻夫こと厚川昌男を頂いての好編。
あとがきにもある通り、日本で最初の奇術アンソロジーにふさわしい濃厚な仕上がりになっている。いいなあ、“名探偵 雅楽戸板康二の少年時代の追憶から、奇術好きエッセイスト江國滋のギョウカイ話、露伴の怪編「魔法修行者」、種村季弘のからくりエッセイ「源右衛門の小箱」まで、未公刊からのチョイスも含めて、作者の顔ぶれも題材も硬軟取り混ぜたバランスが絶妙。MAGICでくくられる広大なジャンルをコンパクトに愛情を込めて選んでいる。じっくり読んだ「魔法修行者」だが、露伴の冗談をこの作品で初めて読みました。
「外法の下り坂」に大笑い。
素天堂も、やっと手に入れた壊れ本の阿部徳蔵「奇術随筆」を、それでも大事にしているのだが、巻頭の名作「幽霊を現す術」や「奇術師逸話」を避けて、老奇術師と女学生の少女たちとの心温まるエピソード「美術曲芸しんこ細工」を選んだ選者の目の確かさ、いかにもと思われる。