犯罪科學別巻 異状風俗資料研究號 四六倍版 武侠社 昭和6年刊

高かろうと思って探しもしなかったこんな本に巡り会えた。
新潮社刊「現代猟奇尖端図鑑」とともに、エロ・グロ・ナンセンス華やかなりし頃の、ある意味到達点か。「猟奇…」が現代風俗の集大成なら、こちらはあくまでも学究的?なエッセイの集大成ともいえよう。珍しくはないのだろうけれども、あちこちに見かけるという本ではないと思う。背表紙が壊れていたが何とか補修程度で復元できた。武侠社の雑誌としても、当時の人脈を最高度に発揮した格段の執筆陣で、400ページを越す大冊に、和洋、古今の硬軟取り混ぜた異状風俗の大盤振る舞い。モダノロジスト今和次郎の自筆挿絵付き珍奇西洋服飾史「服飾のグロ」。室生犀星の「日本文学に現れたる性欲描写」。「築地本願寺」で知られる建築家・建築史家伊東忠太の建築史エッセイ「神秘の印度建築」。さらに究極の珍品、堀口大学の父君九萬一のエッセイ「一圓が六千圓になる西班牙の富籤」等々、目次を書きうつしていくだけで終わってしまうラインアップなのだが、もちろん非アカデミックな西洋文学(とくに獨墺)の紹介者、丸木砂土によるサド「ソドム百二十日」の梗概の紹介も欠かせないだろう。カラーを含む口絵も、当時のパフォーミング・アート芸術の最先端をビジュアルで紹介するヌードダンス・フォトと各地野蛮人!の珍奇風俗写真、武器、浴場などの風俗史画像の混ぜ合せで巻中のカードを含めれば、一〇〇ページを越す壮観である。
もちろん、例の作業の資料にでもなろうかと思ったのだが残念ながら、そちらの収穫はゼロ。武侠社といえば「犯罪科学全集」「性科学全集」でお世話になったとはいえ、いつもいつも当たるはずもないのだが、しかし、最大の収穫は名にしおうアマチュア・マジシャンで、奇術の研究家阿部徳藏の「カード・ひすとりい」かもしれない。別刷りアート紙ページを含めると六〇ページあまりの大論文である。世界各国のカードの歴史、ゲームから、魔術までのあらゆる文化史的な考証が繰り広げられている。この素材はゲーム部分を増補されて数年後に第一書房「とらんぷ」として結実することになのだけれど、とはいえそれも現在では稀覯本、どこかでこれを復刊してくれないものだろうか。
新年早々たまりにたまっている日記ネタのお蔵出し。とりあえず新年早々辛気臭いところから失礼します。「伯林白昼夢」感想は次回。このネタはその前振りということで。