緑なすこの蓬莱は、緑なす彼のエールの地か

「蓬莱」 皆川正禧 伝奇の匣8ゴシック名訳集成 暴夜アラビア幻想譚 学研 東雅夫編 ISBN:4059003360
小泉八雲の死にあたって、門下生皆川正禧が、究極の美文でかの人の来し方をつづったもの。始皇帝が探し求めた不老不死の国“蓬莱”をわが日本に見立てたそれは、当時の文人のもつ豊富な語彙の見事な嵌木細工としての散文詩ともいえよう。編者解説にもあるとおり、文字通り“絶唱”だった。
まさかと思っていた「シャグパットの毛剃」全編が、タイトルにこそなっていないものの新刊でお目にかかれるとは。「オトラント城奇譚」とともにゴシック・ロマンの代表とも云うべき「ヴァテック」を巻頭に、ゴシック趣味の大きな分野を占める東洋幻想における欠落がこれで埋められたといえよう。それにしても、100年近く眠っていた翻訳を掘りおこし、新資料とともに総ルビを含む起伏に富む流麗な原文を、すべて復刻するという英断を下してくださった、出版社「学研」と編集作業をおこなった東雅夫氏に感謝と尊敬の気持ちを。これを機会に新しい読者が生まれてくれるのはうれしいものです。
これが前回の書き込みです。
http://d.hatena.ne.jp/sutendo/20030918