デュシャン展の1日

 http://www.yma.city.yokohama.jp/kikaku/duchamp/
所用のため外出していたKさんと、横浜駅で待ち合わせ。東急線の歴史的改修は終わったが、そのほかの駅全体の工事はまだまだ進行中。JR桜木町駅からおきまりの動く歩道で、ランドマークタワー経由で横浜美術館へ。 朝早かったせいか比較的ゆっくり作品を見ることができた。
デュシャンの初期「キュビスム」時代の絵画からかと思ったら、劈頭、「泉」の展示。素天堂自体は前に見ているので、特に衝撃はないが、初めての人には確かにインパクトはあるだろう。その後から、「階段を下りるヌード」とその関連作品が何点か続いて、そこから、現代美術とその原典としてのデュシャン作品を並列して展示されている。「大ガラス 東京バージョン」は、初めて見る。いつも見ている写真だと、数多残された図面やメモから、立体のオブジェがガラス板に挟まっているかのイメージなのだが、じつは、すべてガラス板に描かれていたのだった。複製可能な設計図に基づく美術作品というコンセプトはここから始まっていたのだった。同時に展示された、オマージュ(もしくは挑戦? )としての後続美術作品は、ある意味、コンセプチュアル・アートの性格でもある、パロディーと言葉遊びを含んでいるので、何回か大笑いできる展覧会でもあった。俵に留まった巨大な“鳥の”「大ガラス」は、考えついたものの勝ちだと、つくづく思う。でも大笑い。全体を包む奇妙な空虚感を後に常設展示室へむかう。
今期の所蔵品展示は、幻想がテーマということで、素天堂的には、こちらの方がおおハマリ! 企画展からだと反対から展示を見るのだが、それがある意味大正解で、所蔵の版画から、幻想性の高いものを選んであって、実に充実していた。ジム・ダインの「ランボー」のシリーズ、エッシャー、駒井に始まる現代版画の小展示は秀逸。海外美術にコーナーは「シュール・レアリスム」ダリ、マグリットデルヴォー、エルンスト(これはコラージュも)、「毛皮の生えたコーヒーカップ」で有名な、メレット・オッペンハイムの小オブジェ「リス」これは可愛い。さらにマン・レイのオブジェは、企画展がらみで当然。それにしても、いつ見てもリー・ミラーの瞳は美しい。マン・レイがいつまでも焦がれていたのも頷ける。写真の展示もメインは「シュール・レアリスム」マン・レイブラッサイから、ハンス・ベルメールの人形オブジェと、ウニカ・ツュルンをモデルの“緊縛”写真! 。精神的にはおなか一杯なのだが、形而下的な面ではやっぱり空腹感が……。
ここから、素天堂にとってはいわば、センチメンタル・ジャーニーの趣、旧東横線の高架の脇を通りぬけて、Kさんをさそっての野毛探訪。先ず野毛の裏道にあるおすすめの“紳士の酒場”「叶屋」へ、キャッチとは裏腹な、濃〜くただようおじさん臭のなかで軽く一杯とお寿司の昼食。裏道づくしで辿りついた、野毛の坂途中にある「天保堂 苅部書店」が、本日のもう一つのテーマ。今では東京都内には残っていない、古いタイプの古本屋だ。案の定Kさんは大喜び。なめるように店内探索の後、なかなかの収穫を手にお店を出るとさっきすし食ったばかりなのに、「おなか空いた」とのたまう。桜木町までの路はおじさん向けの店だらけで、甘いもの屋なんてないし、やむを得ず駅前ぴおシティの地下へ入って行くと、あったよ。おじさん向けの甘いもの屋が。ここで小倉ホットケーキを堪能してやっとニッコリするKさん。帰りは横浜でスカ線-総武快速に乗り換えあっという間に錦糸町。車中お決まりの本に関するご託に、ちょっぴりムッとしながらもご機嫌なKさんでした。
書き忘れたのだが、遺作の「与えられたとせよ 1流れる水 2照明用ガス」が、壁の向こうに立体画像で再現され、扉をヴィデオプロジェクターで見せるという技法が使われており、のぞき穴をのぞいていると、動画のお姉さんが背中にかぶってくるのはちょっと気味の悪い経験だった(ワクワクしたけれど)。