エトルリアの遺跡 D.H.ロレンス著 土方定一・杉浦勝郎訳 '73 美術出版社刊 

エトルリア美術に関する本が気になっていた。原因はマンディアルグの「ボマルツォの怪物」。これは、素天堂の黒死館逍遙(エッセイ)三、庭園散策で取り上げたポーとムヒカ・ライネス「ボマルツォ公の回想」と共に重要な参照文献だった。
その中でボマルツォ庭園の性格に古いエトルリア芸術の残照を見るという項目があったのだ。当然興味を持って探したのだが、ないんですよ。文献が。もちろんゼロではないけれど。三輪福松「エトルリアの芸術」という地味な本くらい。探していたこの本にやっとめぐり逢えて、ロレンスの紀行文と歴史考察のあいまった、この作品を堪能する事ができたわけです。圧巻は中程、「宇宙の生命力についての古代の思考は、」に始まるロレンス自身の神秘的生命論。最晩年、「チャタレイ夫人の恋人」とほとんど同時に書かれた作品だけに、その強烈な信仰告白がワクワクするぐらい素敵だ。エトルリア人という、今は痕跡もない人種の残した遺跡の芸術がロレンスをどれ程高揚させたかがわかる。本来北欧ルネサンスの権威である土方が友人の杉浦と協同して訳した理由はそこにある。細部に渡る壁画の描写も迫力があって楽しい。そのうえ、なんとオマケまであった。カラー口絵であの“ウムブリヤの泣儒なきおとこ”に出逢ったのである。画像はこちら Fig.76 タルクィニア:鳥占い師の墓:奥壁
http://www.um.u-tokyo.ac.jp/publish_db/2000Afterlife/06/0621.html
うーん、これだったのか。ということで、今回も無理矢理黒死館第2回でした。