映画の世界史 / ロ・ズカ 著 ; 永戸俊雄譯 文庫クセジュ 004 白水社 1951.11

連休最後の日は、上野。先月時間がなくて、じっくり見られなかった上野駅公園口の古書市へ。こどもの日を上野、御徒町あたりで過ごそうという人混みをかいくぐり、さらに「クレヨンしんちゃん」の入場待ちでいっぱいの子供達の列を、申し訳なさげにかき分けて常設売り場のある地下へと入っていく。確かに、これはと言う花はないかもしれないが、なかなか面白い品揃え。二時間ほど探索して何冊かをレジへ。その中で最後に見つけたのが表題の本。クセジュといえば挿絵がない、というのが素天堂の印象なのだが、この本だけは挿絵が豊富。もちろん挿絵ばかりではなく、映画初期からの通史としても一級品だと思っている。著者自身もアニメーションを手がけているだけに、メリエスに始まる特撮や動画に関する言及も多い、五〇年代に出た本では異色の映画史だ。コンパクトな割りには個々の作品、人物に関する叙述も豊富で、主な人物にはカットがついているのだが、これが珍品、塚本邦雄が「コクトー紛い」と揶揄した、ジャン・マレーが玄人はだしの似顔絵を見せてくれているのである。のちにヌーヴェル・バーグ運動にからむ事になる著者故の発言も多く、とくに、サイレントからの技術の進化に対する叙述の中で述べられている「映画が天才を疲労させ、枯渇させるとは思わないが、ルネ・クレールチャプリンシュトロハイムやドレイエルの沈黙は、なにを意味するのであろうか。」などというコメントは結構当時の映画界にはきつい発言だったのではないだろうか。
そのほかに、同日の収穫としては同じ白水社刊の「西域探検紀行全集」の一冊、「中央アジア自動車横断」1967 との再会があった。これは黒死館というか、虫太郎本で、一九三〇年代のはじめに行われたナショナル・ジオグラフィック・マガジン後援で行われたシトロエン社によるユーラシア大陸横断の、本人もそれに参加したジョルジュ・ル・フェーブルによる苦闘の記録なのである。この探検の事は「人外魔境」の中で触れられているのでご存じの方もいらっしゃると思う。いかに文明の利器だといっても、そうは簡単に横断させてくれないのがユーラシア大陸なのである。
この苦闘の映像の一部は、時代のたまものDVD「20世紀の巨人 偉人列伝 フェラーリ~ポルシェ他 クルマとスピード」アイ・ヴィー・シー - ASIN:B00009V9R7 で見る事もできるが、なにしろ、人類初の自動車による(これは一部そうでないところもあるのだが)ユーラシア大陸横断の快挙のドキュメンタリーとして、無免許の自動車マニアを自負する素天堂としては、書棚に常備しておきたい一冊なのであった。
そんなこんなで古書市をでた素天堂とK君は、聚楽地下の「ライオン」で、その日の収穫を肴に、なんともうまいビールを堪能したのでありました。