異人館巡りin神戸 (3) aug.20.2005

ほとんど風を感じない熱気の中、「風見鶏の家」をはじめとする周りの人混みとは一線を画すように、とはいえそれなりに立て込んではいるのだが、重文「萌黄の家」があった。
広くはないけれども落ち着いた庭に惹かれて入り込んでみると、バルコニーの付け根の軒蛇腹とたっぷり使ったガラスの窓が見事だった。入場制限があるようなのだが、スリッパはまだある。ここも外観だけですまそうと思ったのだが、たたずまいに惹かれてチケットを購入。無駄な展示がなく、ゆっくりと親密感あふれる内装を鑑賞できる。居住者の声が聞こえるような自然な家具とインテリアが好ましい。いくつか残る西洋館の最初期にたてられた一つだと思うが、なぜここの土地が選ばれ、建てられたのか。神戸という街のわざわざ一番山側、実際あがってみると結構きつい坂を上りきらなければならない、北野という土地が選ばれたそのわけはこの家の2階に上がると一瞬で答えが出る。
手入れの行き届いた寝室に半分あげられた窓があり、海から運ばれた熱気をここまでの斜面をおおう、立木が冷まして部屋に入り込んでくる。白いレースのカーテンがその風を含んでまーるく膨らみ、真夏の日差しを遮っている。幾何学紋様が美しいガラス窓で囲まれた広いベランダは、ゆったりとして、夕刻からのカクテルパーティーの心地よさを感じさせてくれる。眼下に広がる、神戸の町並みは港へと続き、この家を維持するための営みが行われているのを、パーティーのホストを務めつつ、この家の主人は睥睨していたことだろう。ベランダにおかれたラタンの椅子に座ると、思わずそんな幻想が呼び起こされる。
立ち去りがたさを振り切って階段を下り、スリッパを返して裏庭へ出ると、その片隅に煉瓦の固まりが安置されている。あの震災の大きな傷は以後あちこちでひっそりと保管されているのを見たものだが、それ以降どれだけの努力で復元されたのかを思うと、通りすがりの観光客たる素天堂は、その熱意に改めて敬意を表さなくてはなるまい。